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第69話 矛盾

 それぞれ部屋に戻るため、会議室を後にした。

 私は私たちの宿舎とは別の、騎士団の宿舎へ向かっていたセスに声をかけるべく追いかけた。


「…………」


 追いつくよりも早く、セスが気配に気づいたのか振り向いた。


「セス、ちょっといい?」


 足を止めて待っていてくれているセスに小走りで駆け寄る。


「あぁ、いいよ」


「エレンと3週間後の約束をしたってことは、このまま3班に残ってくれるってことだよね?」


 セスは報告の際、ヴィクトールに解任を求めていた。確かあの時、ヴィクトールはまた後日改めて考えると言っていたはず。後日というくらいだから今日の今日でどうするか決まってはいないだろう。

 しかしエレンとあんな約束をしたということは、セスの気が変わったということを意味しているのでないだろうか。


「ヴィクトールからはどうするとは聞いていない。でももし解任の要請が認められるなら俺はカルナでエレンを待つよ」


「そっか……」


 肩を落とした私を見て、セスが苦笑する。

 一体何がおかしいというのだろう。


「君は、どうしてそんなに俺を引き留めたいの?」


「3班のみんなは、僕にとって初めての仲間だから。最後まで一緒にいたいっていうか……」


 言ってることが漫画のセリフみたいに思え、なんだか煮え切らない返事になってしまった。

 しかしそれを聞いてセスは茶化すことなく、真剣な表情で私を見つめた。


「もし君が致命傷を負った時に、君の延命を諦めた俺を見て……残された最後の意識の中で同じことが言えるか?」


「……っ」


 頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。


 私はこれ以上仲間を失いたくなかった。このタイミングでセスが3班を去ったら、それは失うのと同等だ。この先二度と会うこともないのだろうから。


 そしてエレンもセスに殺させたくない。


 これ以上誰も失わずに、このみんなで任務を終わりたかった。

 ただ、それだけだった。


 自分が致命傷を負ったら?


 それをセスが助けられなかったら?


 他の人なら助けられるとしたら?


 分からない。分からないよ、そんなの。

 でもそれでもいいなんてそんなことは、言えない。


「どうして泣くの?」


 あぁ、私は泣いているのか。

 ここに来てずいぶんと涙を流している。情けないと思われただろうか。


「もう、誰にもいなくなってほしくないのに、これ以上誰も失わずに終わりたいのに、どうしたらそれができるか分からない」


「…………」


 涙でぼやけた視界を腕で拭うと、セスは無表情で私を見下ろしていた。


「命に代えられるものはないんだよ」


 そして感情を込めずに言う。


「それなのに、エレンのことは殺せるの?」


「できるよ。必要があれば誰でも」


 ひどい矛盾だ。


 何よりも命が大事だと言うくせに、誰でも殺せると言う。

 意味が分からない。セスの思考が理解できない。

 でも多分、できるかできないかで言えばできるけど、やりたいかやりたくないかで言えばやりたくないんだとは思う。そうであってほしい。

 死がエレンにとって必要ならば、誰にもできないであろうそれを1人で背負うことで与えようとしている。

 それが私たちのためじゃなかったら、セスが今3班を去る必要がない。


「僕は、エレンにいつか前を向いてほしい。生きていてほしい。だからエレンを殺されたくない」


「うん」


「セスにも、エレンを殺してほしくない。エレンのためにってだけじゃなくて、セス自身のためにも。死がエレンにとって救いになるんだもしても、セス1人にそれを背負わせたくない」


「…………」


 セスは相変わらず表情を変えない。

 自分の気持ちが空回りしているようで、ひどく居心地が悪い。


「君は、そんなところまで考えなくていい。今君が気にかけるべきことは、君自身のこととエレンのことだけだよ。このままだと君も壊れてしまう」


 私が壊れる? 何を言っているんだろう。

 私はパーシヴァルに庇われた当事者ではないのに。


 セスの言葉の意味が分からず、私はただ呆然とセスを見つめ返した。

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