第6話 夢
「はぁ……はぁ……」
森の入り口で、私は膝を付いた。
今度は私が息を切らす番だった。
正直、神力総量に自信はあるが、体力はない。
どんなゲームでも魔法使いってHP少ないじゃないですか。そんな感じ。
森の中ではぐれないようにと全速力で走った。
双方が動いている状態でモンスターを撃ち落とすいい練習に……ってそうじゃない。
「何の、嫌がらせです……」
「お前体力なさすぎじゃないか?」
「…………」
仕返しでもしているつもりか。
うずくまって息を整える私を、カデムから降りた父が見下ろしている。
落ち着け、私。気持ちを荒立てるな。相手にしたら余計に疲れる。
「そうですね。今後は体力づくりに勤しみます」
「可愛くねぇなぁ……」
「いいです。別に性格は可愛くなくて。顔は母さんに似て超絶可愛いですから」
「だ・ま・れ!」
そう、私は可愛い。
少し茶色かかった髪と緑の瞳は父譲りだが、母譲りであるクリクリ二重の瞳を持つ可愛らしい顔は、人によっては女性に見えるかもしれない。
残念ながら女声ではないので声を聞かれれば男と分かってしまうが、このままいけば将来イケメンになることは間違いないだろう。
エルフは青年期で体の成長が止まるため、容姿に恵まれているのは純粋に嬉しい。
「せいぜい女に間違われろ」
そう言い残して父は草原に寝転んだ。
「またまた妬んじゃってぇ……」
と言っても、父も父で顔は悪くない。正直、イケメンの部類に入ると言っていい。
あえて口にはしないが。
前世の父は優しく、包容力がある温かい人だったので、友達みたいに冗談を言い合える父親というのもなかなか面白い。
もし前世の記憶がなかったら、私はこの人の本当の子供になれたのに。
最終的に私たちは5日でフィンキーの尻尾を集め終わった。というか、終わらせた。
休憩のために頻繁に森から出たがる父を強制的に居座らせ、何もしなくていいからとほぼ1人で狩り続けた。
それから1日、やっとシスタスへ帰って来た私たちは久方ぶりのお風呂で疲れを癒し、久方ぶりのまともな食事にありつけている。
道中は基本的に干し肉を焼いたものとパン、という感じなので、味にバリエーションがなく飽きやすい。
「はぁ……生き返るぜ……」
グラスに入ったお酒を一気に飲み干し、父はしみじみと言った。
「お酒って美味しいんですか?」
父は里にいた時からよくガネ酒、というお酒を飲んでいる。
見た目は透明で、水と変わらない。こちらの世界にお米は存在しないので、前世で言ったら麦焼酎や芋焼酎みたいな感じだろうか。
「飲んでみろ。お前ももう成人したんだし、これからは飲めるようにならないとな」
そう言って父は空いているグラスにガネ酒を注ぎ、私に差し出した。
「では、遠慮なく……」
それを受け取って口をつける。
「おいしいですね」
意外にも口当たりがよく、飲みやすい。
これがお酒というものならいくらでも飲めそうな気がする。前世でお酒を飲むことがなかったので比較のしようがないのだが、あちらでも成人していたのだから少しくらい飲んでおけばよかった。
「そりゃ何よりだ」
半分ほどまで減ったグラスに、父がガネ酒を継ぎ足した。
気付いたら、深い森の中にいた。
先ほどまで父と食事を共にしていたはずなのに、一体どういうことだろう。
いつの間にか酔いつぶれてしまい、夢でも見ているのだろうか。
それにしてはずいぶんと意識がはっきりしている。現実と変わらないみたいだ。
森の中を歩く。
進んでいるはずなのに景色が変わらないせいで、ちゃんと進めているのか分からない。というか、進む意味があるのかも分からない。進んでいると思いきや後退している可能性もある。そもそも、"入口"と"出口"が存在するかも分からない。
どれくらいの時間を歩いただろう。
夢のはずなのになかなか覚めない。相変わらず景色も変わらない。
どうすれば目を覚ますことができるのだろう。頬を抓ってみる。痛い。現実と同じ痛みを感じる。
ここでどうすればいいのか分からない。
ただこの深い森を歩き続けるしかやりようがない。
それとも動かないのが正解なのかな?
分からなすぎて形容しがたい不安が付きまとって消えない。
何でもいい、出たい。ここから。
この息が詰まりそうな深い森から。




