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第67話 赦し

「……どうしてあんなことを?」


 出ていくなりフィリオがセスに聞いた。

 おそらく、みんな同じ疑問を抱いているだろう。

 パーシヴァルに救われた命を殺すなんて。それをしてしまったら本当にパーシヴァルの死に意味がなくなってしまうのではないのだろうか。


「パーシヴァルの命の重さを、救われた命の重さをエレンはちゃんと理解している。理解しているが故に、エレンは自身の肉体を殺せず、いずれその重さに耐えきれずに心を殺してしまう。エレンの精神が死んでしまえば、それこそパーシヴァルの死が無意味になる。だから自身で殺せないその命を、誰かが絶ってくれるというゆるしを与えなければ。エレンが壊れてしまう前に」


 自分で殺せない命を誰かに殺してもらえる。それがエレンにとってのゆるしだと。

 

 考えてもみなかった方法だ。


 それが正しいのか正しくないのか、そもそも正解があるのかないのか、私には分からない。

 もし、私が家族を失くしたあの時に、誰かに「殺してあげる」と言われたらどうしただろうか。

 目の前でパーシヴァルに庇われて命の終わりを見届けることとなってしまったエレンとは状況が違う。自分の辛さはエレンとは比べ物にならないくらい小さいものなのだろう。それでもそれは救いとなっただろうか。

 何度も死んでしまいたいと願い、それでも自分でそうする勇気すらでなかった私が、「殺してあげる」と言われて「じゃあお願いします」なんて、きっと言えなかっただろう。

 それが言えるならきっと自分でやれている。


「3週間後、エレンが殺してくれと貴方の元に来たら、殺すのですか」


 恐る恐るといった感じで、フィリオが聞いた。


「それはもちろん、約束は果たすよ。でも、きっとエレンは来ない。そのための3週間だ」


「3週間で立ち直れると?」


「昨日までのエレンに戻れるかと言ったらそれは無理だと思うけど、俺に殺してくれと頼みに来ないくらいには立ち直ると思う」


「何を根拠に?」


 フィリオとセスの会話にベルナが口を挟む。

 確かに、セスのその確信はどこから来ているのだろうか。


「明確な根拠はない。だが、パーシヴァルのために死ねないという枷はこれでなくなった。あとは君たちがそれをエレンに強要せず、エレン個人を必要としてあげることができれば大丈夫だろう」


 つまり私たちがエレンを支えろと、そう言っているのか。

 もちろんそれについては誰も異論はないだろう。だけど私たちにエレンの命運がかかっていると言われているようなものだ。それができなければエレンは死を選んでしまうかもしれない。


「パーシヴァルに救われた命なんだから生きろ、という言葉はエレンには重すぎたってことか……」


 アイゼンが反省するように言った。


「そうだね。パーシヴァルに救われた命だから、と言いたくなるのは分かるよ。でも君たちは"パーシヴァルに命を救われたエレン"に生きていて欲しいのではなく、"エレン"に生きていて欲しいのだろう?」


 その言葉にみんなが頷く。

 誰もパーシヴァルの代わりにエレンが死んだほうが良かったなんて思ってはいない。それをエレンが素直に受け取ってくれればいいのだけれど……。


 コンコン。

 ノックの音が響いて扉が開いた。ガヴェインと見慣れない1人の騎士が現れる。

 そうだ、私たちはガヴェインを待っていたんだ。この話の流れにそれを忘れるところだった。


「エレンとリーゼロッテは」


 2人がいないことに気づいたガヴェインが問う。


「エレンの精神状態が不安定だったから俺が部屋に戻らせた。リーゼロッテに付き添わせている。後程ベルナデットが2人に伝えればいいだろう」


「なるほど、分かった」


 セスの言葉にガヴェインは素直に頷いた。それについて特に異論はないようだ。


「レオン、さん」


 入ってきた騎士を見て、フィリオが言った。

 知り合いなのだろうか。

 ガヴェインもレオンと呼ばれた騎士もフィリオを見たが、何も言わなかった。

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