第66話 命の重さ
夕食は班長からの言付け通りみんな食堂に揃ったが、一様に食欲はないようだった。
誰も喋らず、重々しい空気が流れている。
今までよりも1つ数の少なくなった食事を配膳してくれた食堂の人たちもまた、悲しげな表情を浮かべていた。
夕食が終わるとガヴェインは3班の会議室へ行くようにと指示を出して、1人どこかへと行ってしまった。きっとパーシヴァルの代わりの人を紹介するのだろう。
ガヴェインを除いた8人で待つこの会議室には、何とも言えない暗い雰囲気が漂っている。
先ほどの夕食時もそうだったが、その時はまだ食べるという動作で気を紛らわすこともできたが、ここには何もない。
早くガヴェインに戻ってきてほしい。
「なぜ、今まで一度もなかったのにあの時に限って2匹同時に出て来たんでしょうか……」
唐突にフィリオが口を開いた。
本当に、なぜあのタイミングでだったんだろう。1日に二度出てきたことだってなかったのに。
「つがいだったのかな?」
「そうかもしれませんね……。せめて1匹だけだったらパーシヴァルは……」
「私が死ねばよかったのよ。そうしたらパーシヴァルは死なずに済んだ」
私とフィリオの会話にエレンが割り込んできた。
その声は、ひどく無機質だ。
「僕はそういうことを言っているんじゃないんです。パーシヴァルが助かっても貴女を失ったら意味がない」
「意味ならあるわ。だって、パーシヴァルの命の重さと私の命の重さは違うもの……。私なんか、庇う必要なかった」
そう言うエレンは無表情だ。その瞳には光がないように見える。
このまま壊れてしまうのではないか……そう思わせる危うさが滲み出ていた。
「エレンやめろ。パーシヴァルはお前の命の救ったんだ。お前がその命の価値を失くしてしまったら、パーシヴァルは無駄死にしたことになるんだぞ」
アイゼンがフィリオとエレンの間に入る。
言ってることは分かるけど、それは今のエレンに言っていい話じゃない。
「アイゼン」
「そうよ、パーシヴァルは無駄死にしたのよ!! 私なんかを助けるために!!」
「お前っ……! 言っていいことと悪いことがあるぞ!!」
「本当のことを言っただけよ!!」
止めに入ろうとした私を無視して2人はヒートアップしていく。
さすがにエレンに手を出すことはアイゼンもしないだろうけれど、そうなりそうなくらいの剣幕だ。
「エレン、俺が君を殺してあげようか?」
この喧騒を止めるにはいささか静かすぎる声が聞こえた。
それでもその不穏な言葉に、部屋は一瞬で静まり返った。
「セス、なにを……?」
全員の視線が声の主、セスへと集まる。
発せられた言葉からは想像もできないほどの無表情だ。
人は、こんな風に感情を込めずに殺すなんて口にできるのか。
「重いだろう、パーシヴァルの命は。精神を殺してしまいたくなるだろう。だから3週間後、この任務が終わってもまだその重さに耐えられないようだったら、俺が君を殺してあげるよ」
医者としてあるまじき言葉を無感情で吐いたセスを、皆驚きの表情で見つめている。いや、そこにはセスなりの慈悲があるのだろう。でも理解が追いついていない。
エレンは、エレンだけはそれを聞いて、ただ静かに涙を流した。
「うっ……ふ……っ」
エレンの嗚咽が静かな部屋に響く。
セスの言葉はエレンにどんな影響を及ぼしたのだろうか。それが、救いになったのだろうか。
「リーゼロッテ、エレンを部屋に連れて行ってもらえるかな。君もそのまま戻ってこなくていいから、エレンの側についていてあげてほしい。ガヴェインには俺から話をしておく」
「……分かりました」
セスの言葉にリーゼロッテは素直に頷き、エレンを連れて部屋から出て行った。




