第65話 後悔
執務室を出た後、誰もいない大浴場で1人ゆっくりとお風呂に入った。
パーシヴァルはすごい。あの瞬間に、咄嗟にエレンを庇った。自分の命を懸けて。
私にはできない。現に、目の前のワイバーンさえ放り出してただ状況を見ていることしか出来なかった。
今回の件で責められるとすればそれは私だ。
何をどうすればいいのか分からなかった。私が何か出来ていたら、状況は変わっただろうか?
しかしあの距離だ、きっと間に合わなかった。
……いや、そう思いたいだけだ。
そうやって自分を正当化したいだけだ。獣人の少年を見捨てたあの時のように。
あぁ……ダメだ、負のサイクルに入りそう。
パーシヴァル、何で死んじゃったんだよ。生きていてほしかった。家族のために騎士になるって言ってたじゃん。家族が……泣いちゃうじゃん。
私たちだって、悲しいよ。
誰もいないのをいいことに、私はここで声を上げて思いっきり泣いた。
ひとしきり泣いて落ち着いてから、私はお風呂から上がることにした。
「……う、うわっ」
浴室から脱衣所へと出るためにドアを開けたら奥の壁際にセスがいた。
何をするでもなく、両手をポケットに入れて、壁に寄りかかってこちらを見ている。
「えっ……ちょっ……まっ……」
なぜセスがそんな所で佇んでいるのかとか、自分の裸をセスに見られた恥ずかしさとか、きっと泣いていたのを気付かれているだろうこととかが一気に過って慌ててタオルで体を隠す。
「…………」
セスはそんな私を見ても何も言わないし、動こうとしない。
「あー……ごめん、聞こえてたよね」
「……なにも」
「いや、嘘でしょ。聞こえてたからそこで待ってたんでしょ?」
「俺は君が1人でゆっくりと入りたいだろうと思ってここで待っていただけだよ」
気を遣ってくれている。
絶対私が泣いているのに気づいてそこで待っていたのだ。
「そっか、ありがとう、セス」
「…………」
セスは何も言わず、悲しそうに微笑んで私から視線を外した。
正直、セスがこのタイミングで来る可能性を考えていなかった。そうだよね、報告が終わったら来るよね。
ガヴェインはまだヴィクトールと話しているのだろうか。
しかし、パーシヴァルのことで泣いてる私を、セスはどんな気持ちで待っていたのだろう。
申し訳ないことをしてしまった。
「ねぇ、セス」
「シエル、早く服を着て戻るんだ。今の君に必要なのは、少しでも休息を取ることだ」
私の言葉を有無を言わさず遮って、セスは私から離れたところで服を脱ぎ始めた。
「うん、分かった……」
それを眺めるのもおかしい話だし、私もまだ裸だしで、それ以上何も言えずに私は着替えて大浴場を後にするしかなかった。
今回は治癒術師が誰であってもパーシヴァルを助けるのは難しかった。それでもセスは自分を責めてこの任務から外してくれとヴィクトールに頼んでいたのだ。
そのセスに最後まで3班の治癒術師でいて欲しいと頼むのは、酷なのだろうか。
部屋に戻るとニコラは布団に入っていた。
眠っているのか、そうじゃないのかは分からないけれど、私も布団へと入って少し休むことにした。
それから夕食までの1時間余りを、夢も見ずに眠った。
あんなことがあったのにちゃんと眠れるんだなと、自虐的な笑いが込み上げてくる。
ニコラは起きていた。起きて、ただ静かに窓の外を眺めていた。
「……おはよう」
私が起きたことに気づいて、ニコラが声をかけて来た。
「おはよう。こんな時に眠れるなんてね。びっくりしちゃうよね……」
「僕も寝たよ。疲れたよね。しょうがないと思う……」
私の言葉に、ニコラは悲しく笑って答えた。
そう、疲れた。何だかひどく疲れた。何も考えずにひたすら眠ってしまいたい。そして起きたら今日のことは全部夢でしたってなればいいのに。




