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第64話 報告

 ヴィクトールがいる場所までの道中、2人は口を開くことがなかった。

 重々しい空気に私の足も重くなる。


「失礼致します」


「……報告を聞こうか」


 執務室へ入るなりヴィクトールはすぐにそう言った。

 もうすでに誰かが報告したのだろうか、ある程度の状況は把握しているように見える。きっとそうなんだろうな。ずいぶんと慌ただしく人が動いていたし。


「はい。まずこちらのシエルから状況の一部始終を報告致します」


「なるほど。シエル、ゆっくりでいいから説明してくれ」


 私を見てヴィクトールが言う。

 真っ直ぐ射抜くように見つめられて、少し緊張する。


「リザードマンが出てきたところからですか? それともワイバーンが出てきたところからですか?」


「ワイバーンが出てきたところから頼む」


 ガヴェインに聞くとそう返って来た。


 私はなるべく分かりやすいように説明をした。つもり。

 途中でガヴェインやセスがフォローもしてくれ、何とかヴィクトールへ報告を済ました。


「なるほど。状況は分かった。シエル、ご苦労だったな」


「いえ……」


 ヴィクトールが私を労う。

 緊張をしないように、上手く話せるようにとヴィクトールも配慮してくれていた。そのおかげで情報は正しく伝えられたと思う。


「セス、次はお前からの報告を聞こう」


「……パーシヴァルの死因は腎臓を損傷したことによる出血性ショック死。駆けつけた時にはもう意識がなく、俺の手には負えなかった」


「……それは厳しいな。お前でなくとも、手に負えんだろう」


 腎臓を刺されたら致命的ということか。ヴィクトールの口ぶりからも、治癒術師次第でどうにかなったわけではなさそうだが。


「詠唱を必要とするヒューマでは無理だろうが、助けられる治癒術師も存在する」


「それは天族ということだろう。我々では無理と同等だ。騎士団には天族の治癒術師など在籍していない」


 セスはあの時、自分のせいで助けられなかったような言い方をしていたが、エレンのためにそう言ったのだろうか。


「なんであっても、俺はパーシヴァルを助けられなかった。その事実は変わらない」


「自分を責めるな。お前を3班に着任させた責任は俺にある」


「……誰がどう責任を取っても失われた命は戻らないんだ。次の治癒術師が決まっているなら早々に解任を求める」


「え……そんな!」


 セスの突然の解任希望に、私は思わず声を上げてしまった。

 全員の視線が私へと集まる。


「あ……す、すみません」


 セスとヴィクトールの話に割って入った形になってしまった。

 急いで2人へと頭を下げる。


「いや、構わない。シエル、お前は3班の一員としてどう考えている?」


 ヴィクトールにそう聞かれて私はセスを見た。

 セスは、真剣な表情で私を見ている。その表情からは心情がうかがい知れない。


「僕たちは皆、セスを信頼しています。今までに何度も助けてもらったし、今回だってセスがいなかったら被害はもっと拡大していました。僕たちは……僕は、最後までセスにいて欲しいと思っています」


 私がそう言うと、セスは表情を変えることなく私から視線を外した。


「だ、そうだが?」


「仮に違う考えだとしても、シエルは俺の目の前でそれを言うような人間ではない」


 ごもっとも。そりゃそうだよ。本人を目の前にして解任を求めますなんて言えるか。思ってないけど。

 ここまで一緒にやってきたんだから最後まで一緒がいい。それは本心だ。

 私たちはパーシヴァルを失った。ここでセスがいなくなることだって、私たちからすれば失うことと同等だ。これ以上、仲間を失いたくない。


「なるほどな。まぁ、分かった。その件についてはまた後日改めて考える」


「ならばシエルはもう下がってもいいだろう? 本来であればシエルに報告義務はない」


「ああ、そうだな。シエル、下がっていい。大変な時にすまなかったな」


 それは暗に、ここから先お前は邪魔だと言っているのだろう。

 仕方ない。仕方がないことだけど、少し悔しい。


「それでは、失礼します」


 私は3人の視線を受けつつ、執務室から出た。

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