第62話 パーシヴァル・2
「セス、パーシヴァルを助けて!!」
何もせずに立ち上がったセスを見て、エレンが泣き叫ぶ。
「俺にはもう、どうにもできない……」
そう、静かに、しかし悔し気な表情で言った。
「うそ……だって、だってまだ息をしてるわ!! まだ生きてる!!」
「この出血量では、俺の手には負えない。すまない……」
「そんな……」
嘘だ、嘘でしょ。
パーシヴァルは死ぬってこと?
さっきまで普通に動いていた。普通に喋っていたのに。
「今すぐ出血を止めたらだめなの? 僕にしてくれたみたいに……」
リザードマンに手を貫かれた時、セスは私にそうしてくれた。傷は治さなくとも出血さえ止められれば何とかなるのではないのだろうか?
「……治癒術は、怪我をした時と逆の工程を辿るんだ。出血を止めるだけとか、傷口を塞ぐだけということができない。皮膚や肉が裂け出血した怪我は、まずその失った血液を1から作り出してその後に傷口を塞ぐ。ここまでの出血だと、俺にはそれを上回って治癒することは……できない」
「…………」
あぁ、なるほど。だから治癒術は神力の消費が激しいのかな。って、そんなことを、聞きたいんじゃない。そんな絶望的なこと、聞きたくない。
「もう……ダメなの? どうしようもないの? パーシヴァル……家族がいるんでしょう……私には誰もいないのに……私は、死んでもよかったのに……!」
「エレン……」
パーシヴァルに縋って泣くエレンを、リーゼロッテが抱きしめて泣いた。
いつの間にかパーシヴァルの周りに全員が揃っている。アイゼンとニコラをベルナたちが呼んできたのだろう。
「すまない、俺の力不足だ……」
セスがきつく目を閉じた。
誰に、何と声をかけていいのか分からない。他のみんなも同様なのだろう。エレンとリーゼロッテのすすり泣く声だけが響いている。
そしてパーシヴァルは、鼓動を止めた。
パーシヴァルはいったん横穴へと運ばれ、ガヴェインが全員を横穴の前へと集めた。
「今回のことは、すべて俺の責任だ。他の誰のせいでもない」
ガヴェインは第一声にそう言った。
「ワイバーン2匹にリザードマン2匹。今までになかったとは言え、状況としてありえない話ではなかったし、実際に今起こり得たことだ。だが俺がそれを想定していなかった。ワイバーンを対処する際は、こちら側の背後にも人員を配置しておくべきだった。俺の責任だ。すまない」
そう言って頭を下げた。
ワイバーン2匹とリザードマン2匹。一体誰がそれを予測できたというのか。
そもそも、さっきガヴェインが言ったように今までリザードマンが2匹同時に出てきたことなんてなかった。なのになぜあのタイミングで。なぜワイバーンの対処で背後が手薄になっている時に限って。なぜ休憩で人員を欠いている時に限って。
運が悪かった。タイミングが悪かった。ただ、それだけのこと。それだけのことで、大切な仲間の命が失われてしまった。
「誰の責任だとか追及するのはやめませんか。パーシヴァルだってそんなことを望んでいないだろうし、今僕たちがするべきことは残りの任務を無事に終えることだけです」
「その通りです。そんなことをしてもパーシヴァルは戻ってこない。誰かのせいだと言うのなら、それは全員の責任です。俺たちはこれ以上誰も失わないように尽力するしかない」
フィリオとアイゼンが言う。
言いたいことは分かる。実際その通りなんだとも思う。だが、今その言葉で救われる者はいない。
パーシヴァルに命を救われたエレンも、パーシヴァルを救えなかったと自分を責めるセスも、この班の責任者であるガヴェインも、きっとそんな言葉で救われはしないのだ。
私は、前世で両親と弟を亡くした時そうだった。誰の言葉も、何の意味もなさなかった。
私なんかよりももっと、目の前でその現実に直面した彼らの方がきっと辛いだろう。
「……全員、配置についてくれ。エレン、お前は休憩へ。そちらからも1人休憩に入るように」
ガヴェインは2人の言葉に何かを返すことはなく、向こう側へと歩いて行った。




