第59話 大喧嘩・1
「リーゼ、あんたねぇ……私の何が気に入らないって言うのよ!!」
「言わないと分からないのですか? すべてですよ、すべて!」
この日は15時~23時までの任務時間だった。
昼食を摂ろうとニコラと2人で食堂に訪れたところ、先にいた2人が言い争いをしていた。
「だからってあんな分かりやすい嫌がらせをする人間がいるかってのよ!!」
「分からせるためにやってるんです!!」
「「………」」
食堂に入ってしまった手前、出るに出られない。かと言って口を挟める雰囲気でもないし、挟みたくもない。
食堂で働いている女性たちが一様に苦笑いを浮かべながら配膳をしている。
「あのぅ……何があったんですか?」
近くにいた女性にこっそりと聞いてみる。
「よく分からないんですよ。ここに入ってきた時にはもうこんな感じで」
言い争いをしながらここに来たと言う訳か。
私もニコラも席に着くこともできずにただ入り口付近で佇んでいると、次にベルナが現れた。
「まだやっているのかあいつらは」
呆れ顔で言う。
「何? 何があったの?」
「リーゼロッテがエレンに嫌がらせをしたのだ。理由はよく分からんが、いつものごとくくだらないことだろう」
「嫌がらせって……」
なにそれ。リーゼロッテがエレンに嫌がらせをするとか、私の知っているリーゼロッテじゃない。
しかもいつものごとくと言うことは、2人はいつもこんな感じにいがみ合っているんだろうか?
「おそらくエレンが原因だな。あいつはいつも余計なひと言でリーゼロッテを怒らせるんだ。今回はエレンが化粧をしている間に、リーゼロッテがエレンの服をゴミ箱に捨てていた」
「えぇ……?」
余計なひと言でリーゼロッテを怒らせるエレンはまぁ、大体想像がつく。でもリーゼロッテがあんな風にムキになって声を荒上げたり、嫌がらせをするなんて全くもって予想外だ。
私の中のリーゼロッテは大人しい少女って感じだったのに。
「どっちにしろ止めたほうがいいんじゃ……? 他の人たちももうすぐ来るよ……」
そうは言うが自分はやりたくない感を半端なく滲ませてニコラが言う。
「おい、お前たちいつまでやってるんだ。くだらない言い争いはやめてさっさと席につけ」
ベルナが2人の方へカツカツと歩いて行って仲裁に入る。こんな感じでいつもベルナは間に入っているのだろうか。
「くだらないですって……! ベルナあんただってリーゼが捨てるところを見てたんでしょ! それなのに止めもせず何も言わないなんて! あんたも同罪よ!」
「それはエレン、あなたが悪いってベルナも分かっているからですよ! 何であなたはいちいちいちいち、私のことを小馬鹿にするんですか!」
「うるさい!! いいから席に着け!!」
ベルナの怒鳴り声で2人はしぶしぶ言い争いをやめ、席に着いた。
「騒がせたな、お前たちも席に着くといい」
ベルナが何事もなかったかのように私たちに言うが、非常に気まずい雰囲気が漂っている。
とりあえずここに立っていてもしょうがないので、エレンたちの隣へと腰かけた。
本当は少し離れた場所へと座りたいくらいだが、もう全員分並べて配膳されているのでしょうがない。
その後に来たフィリオたちはその気まずい雰囲気で何かを察した。私とニコラに"何かあったのか"と目で訴えてきたので、とりあえず曖昧に笑って席を促す。
「3人とも気にするな、エレンとリーゼロッテのいつものくだらない言い争いだ」
そんな空気を察してベルナがサラッと言う。
その言葉に驚きを表した3人だが、それについて何かを口にすることはなかった。
「今日のご飯、おいしそうですね!」
「ああ、早く食べたいよな、セスと班長はまだかなぁ?」
必然的にエレンとリーゼロッテの向かいに座ることになったフィリオとパーシヴァルは、不自然な笑顔でそう話し始めた。
痛々しい。
やがてセスとガヴェインも食堂へとやってきて食事が開始となった。




