第5話 神術
そちらの方を一瞥した父の手から火柱が放出され、こちらに向かってきていた蛾の群れは一瞬で消し炭になった。
「あれはパルル。火が弱点だ。群れで襲ってくるが驚異ではない」
「パルル……」
サッカーボールくらいはありそうなほど巨大な蛾だった。どう考えてもそんな可愛い名前は似合わない。名付けた人は一体何を思ってその名前に決めたのか聞いてみたいほどだ。
「フィンキーは地が弱点だ。出現頻度は低いがガヴィというモンスターもいる。そいつは風が弱点」
「なるほど……」
神術。
神属性のものが使う魔法をそう呼ぶ。逆に魔属性のものが使う魔法は魔術と呼ばれている。
我々エルフは火・水・地・風の4大元素を扱える適性を持ち、無詠唱でそれを行うことができる。逆を言えば、いくら詠唱をしたとしても自分にない適性の術を扱うことはできない。
それを使えるようになる道具も存在するのだが、その話は今は置いておく。
ちなみにお風呂に入る際に創り出していたお湯は、火と水の混合術だ。火と風を混合させれば温風となり、髪や服を乾かすのに重宝する。
「あれがフィンキーだ」
そう言いながら父が木の上に向かって石つぶてを放った。
それは見事に命中し、キィィィという耳障りな声を響かせてフィンキーは木から落下した。
猿だ。まごうことなき猿。
「こいつの尻尾を切り落として袋に入れろ」
「はい」
父に言われるがまま、私はフィンキーの尻尾を風の神術を使って切り落とし、袋へと詰めた。
あれから3時間くらいは経過しただろうか。いかんせん時計がないので時間経過が分からないのだが、体感的にはそれくらいかと思う。
「はぁ……はぁ……。お前、ずいぶん平気そうな顔してるが、どんだけ神力総量あるんだよ……」
大量に群がってくるパルルを焼き払いつつ、息を荒くした父が言った。
「誰のせいですか。誰の」
遠目に見えたフィンキーを撃ち落としつつ、私は返した。
父に反して、疲れという疲れは感じていない。
魔力濃度が高いために息苦しさは相変わらずだが、呼吸が乱れるほどではない。
この世界ではどういう訳か、MPを使うと同じ割合でHPを消費する。つまりMPを10%消費する神術を使ったらHPも10%消費されてしまうのだ。
父の息が荒いのはそのせいだろう。
MPが0になるとHPも0になってしまうので、MPが残り5%くらいになったら気を失うように、体が勝手にリミットをかける。そうやってリミッターに引っかかるまで神力を使い続けていると、神力の最大量が増える、と言われている。
特に幼少期にやると伸び代が大きくなるらしく、父は毎日のように私にそれをやらせてきた。
「いや、それにしてもお前、いくらなんでも異常じゃないか? これだけ神術を使い続けて平然としていられるなんて」
「そんなこと言われましても……」
私からすれば父の方が貧弱ではないか、と思う。
ここのモンスターは数は多いがどれも弱く、一撃で倒せることがほとんどだ。魔力濃度が高いせいで神力の回復速度が普段より遅くても、神力の消費が上回ることはない。
衰弱していっているということは、父の場合、消費が上回っているということだ。オーバーキルしているようにも見えないので、単純に神力総量と回復速度の違いだろう。
「森から出て休憩するぞ」
父がカデムに跨がりながら言った。
相変わらず私が乗ることは許されないらしい。
まぁ、神力を消費することによる体力消費が苦しいのは身を以て知っているので、ここは目を瞑ろう。
「森から出るんですか?」
「お前、こんなところで休憩ができるとでも思ってんのか……」
「それもそうですね」
ひっきりなしに襲いかかってくるパルルのせいで、ゆっくり座って休むなんてことはできそうにない。
私は素直に父の後に続いた。続こうとした。
「え、ちょっ……待ってください!」
しかし父はずいぶんな速度でカデムを走らせていってしまい、私はその場にポツンと取り残された。




