第55話 公平性・1
「え、なに? 止めちゃダメだった?」
さっきの口ぶりから言って終わりにしていいと受け取ってしまったけれど、ずっとやってないとダメだったのだろうか。
「……君の神力がすごい勢いで回復している。放出してもらった神力が、すぐに君に吸収され尽くされてしまいそうだ」
「……えぇ……じゃあ出し続けてればいいの?」
コップを再び手に取り、神力を流す。
「……そうすると私が苦しくなるんだけどね」
エレンは肩を竦めてお弁当を食べ始めた。
そうは言っても今はセスが優先だ。我慢してもらおう。
「シエル。もう大丈夫だ、ありがとう。これ以上やるとエレンが辛くなるだろうから」
神力を放出し続けてしばらく経った頃に、セスが言った。
コップを置く。あぁ、なんだか少しだけ疲れた気がする。
「もう結構辛いんだけどね」
「すまなかったね。協力ありがとう、エレン」
それでもエレンは私が神力を放出している間、何も言わなかった。エレンもセスに気を遣っているのだろう。
「だいぶ楽になった……。助かったよ、シエル」
「こんなことでいいのならいつでも」
「次の休憩はパーシヴァルとベルナデットに来てもらったほうがいい。まぁ、この休憩が終わるまでに君が吸収してしまうかもしれないけど」
ベルナは獣人だから神属性だとして、パーシヴァルも神属性なのか。ヒューマの前衛はどっちの属性なのか私は見て分からない。
残りの時間で急いでお弁当をかき込んで私とエレンは広場へと戻った。
セスは全員の休憩が終わるまで、広場には戻ってこなかった。元々他の班の治癒術師は横穴に待機しているものだし、ガヴェインも自分が指示したことだからかそれについては特に何も言わない。
幸いにもこの日はこれ以上の怪我人は出ずに、無事に任務を終えた。
「シエル、昨日セスに頼まれて回復の手伝いをしたそうだな」
次の日、珍しくガヴェインと休憩が一緒になった。
セスから聞いたのだろう。休憩に入るなりそんなことを聞いてきた。
「ええ。何か問題でも?」
「いや、問題はない。俺からも礼を言わせてもらおう。ご苦労だった」
なるほど、そっちか。てっきり何か咎められるのかと思った。
「あれくらいならお安いご用ですよ。大丈夫です」
「俺にはよく分からないが、あの様子じゃだいぶ辛かったんだろうな」
お弁当を食べながらガヴェインが言う。
ガヴェインは剣士だし、神力なり魔力なりを消耗しきったことがないのだろう。
幼少期、私は父に毎日毎日神力切れで倒れるまで術を使うようにと指導を受けた。お陰でこの神力総量を手に入れることができたが、もうそれは恨むレベルでしんどかった記憶がある。
「そうですね……あれは辛いですよ。あそこまで消耗すると眩暈も酷いでしょうし。他の治癒術師を見たことがないので分からないんですが、治癒術の神力消耗はずいぶんと激しいのですね」
「まぁ、そうなんだろうな。だが騎士団に所属する本職の治癒術師はフィリオの怪我くらいのものを治癒したらそこそこ辛そうにはしているが、さすがにあそこまでではない。セスは自分でも荷が重いと言っていた」
あの怪我を治癒してあれだけ消耗すると言うことは、生きるか死ぬかというレベルの怪我ではきっと手に負えないだろう。
本職の治癒術師なら助けられるかもしれないけれど、セスにはできないかもしれない。だからセスは怪我人を出す前に自分が主体となって敵を倒したい。そう口にしていた理由はよくわかる。
「神力総量の問題でしょう。あとは回復速度か……。なんにせよ、あの辛さを知っている僕としては、セスに治癒術をあんまり使ってほしくないですね」
「そうだな。だからセスはヴィクトール隊長から依頼を受けた時に、極力怪我人を減らすため、戦闘へ参加することを条件とした。セスの言いたいことは分かるんだが、さすがに主戦力となってもらう訳にもいかなくてな……」
「それは他の班との公平性を保つためですか?」
「ああ」
ガヴェインは私の質問に苦い顔で頷いた。




