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第54話 濃度

 フィリオの元へと駆けつけていくセスを、私とニコラも追った。向こう側からもガヴェインとアイゼン、リーゼロッテが駆けつけてきた。


「フィリオ、大丈夫だ、すぐに治す」


 フィリオの前に膝をついたセスが、傷口に両手をかざし集中する。

 淡い光が傷口を包むと、溢れ出ていた血が少しずつ止まっていく。しばらくした後その光は空中に散るように消えていった。


「……はっ……はぁ……」


 セスが地面に右手をついてうずくまった。荒く呼吸をして苦しそうに左手で胸を強く押さえている。


「セス……セス、大丈夫ですか!?」


 ガバッと起きたフィリオがセスの体を支える。ずいぶんいきなり元気になったものだ。それだけ動ければ大丈夫そうだな。

 私が2日目に怪我をした以降は軽症者しか出なかったため、セスがここまでの消耗を見せるのは初めてのことだ。


 これが、騎士団が望んだ結果か。

 セスにサポートを徹底させ、怪我人が出たら治癒させる。公平性を保つために、あえてデメリットが多いやり方をする。組織である以上、ある程度規約に縛られるのはしょうがないとは思うが、これで本当に公平性が保たれているのだろうか。


「……大丈夫、そうだね……」


「僕は大丈夫です。もう痛みもありません。でも、セスが……」


「フィリオ、セスを横穴に連れて行って休ませろ。お前もそのまま休憩に入れ」


 ガヴェインの言葉にフィリオは何か言いたげだったが素直に頷き、セスの体を支えながら2人で横穴へと入っていった。


「アイゼン、リーゼロッテ。リザードマンを崖下へと捨ててからエレンとこちらへ来い。ベルナデットは向こうで待機だ。俺はこのままこちら側で待機する」


「分かりました」


 ガヴェインがアイゼンとリーゼロッテに指示を出す。

 崖下へと死体を捨てに行った後、エレンを連れて戻ってきたので私たちはベルナと合流して死体処理係へと回る。


 30分後、フィリオが1人で外に出てきた。セスはまだ休んでいるのだろう。


「シエル、セスが貴方に来てほしいと言っています」


 戻って来るなりフィリオが私に言った。

 何だろう。


「分かった。じゃあ休憩に行かせてもらうよ」


 横穴側からはエレンが休憩に入るようで、すでに奥に来ていた。

 セスは、壁に寄りかかって地面に座っている。息が荒い。30分前とあまり変わっていないように思える。


「セス、大丈夫? フィリオから僕を呼んでいると聞いたけど」


「ああ……すまないね、頼みたいことがあるんだ」


「うん、なに?」


「神力を、放出してほしい。ここはルブラが近いから魔力濃度が高くてね」


 魔力濃度が高いのか。

 フィンキーがいた森ほどではないと思うので、全然気づいてはいなかった。

 

 しかし神力を放出する?

 要は気を放出するということなのだろうが、そんなことやったことないし術師はそういうの苦手とするんじゃなかったっけ?


「ごめん、どうやってやるのか分からないんだけど」


「触媒に神力を流すのと同じよ。何でもいい……そうね、例えばこのコップを触媒だと思ってやればいいわ」


 ちょっと離れたところから見ていたエレンが、机の上に置いてあったコップを持ち上げて言った。

 なるほど、分かりやすい説明だ。


「この空間の神力濃度が高くなれば、回復も少し早まるから……申し訳ないんだけど」


「そんなことなら全然問題ないよ。じゃあやってみる」


 コップを触媒だと思って光を灯す感覚で神力を流す。


「……できてるのこれ?」


 やってはいるものの、視覚的にも感覚的にも何の変化もなくてちゃんとできているのか分からない。


「できてる」


「できてるんじゃない? 息苦しくなってきたし」


 セスとエレンが同時に言う。

 そうか、エレンは魔属性だから神力が濃くなると分かるのか。


「これだけ濃度が高くなればだいぶ違う。ありがとう、シエル」


「どういたしまして」


 神力を流すのをやめてコップを机に置いた。


「……!」


 その瞬間、なぜかセスが驚きの表情を浮かべて私を見た。

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