第51話 規則・3
「包帯を外そうか」
止血したとは言え、少しずつ滲み出てきていた血が包帯を赤く染めている。
セスはそれを全て外すと傷に手を翳した。
淡い光に包まれると痛みが引いていき、傷口も綺麗に消えて行った。
「……これで、痛みもなくなっただろう」
呼吸を荒くしてセスが言う。
怪我をする前と同じ状態に戻っている。すごいな、治癒術。
「ありがとう。動かしても全然痛くない。セス、大丈夫?」
「少し、休めば大丈夫だ。君くらい、神力があれば……これくらい簡単に、治せるんだろうけどね」
「僕の神力をセスにあげるとかはできないの? そういう術、ないの?」
どうせならこの有り余る神力を有効活用したい。もしそれができればセスも気にせず治癒術を使える。
「誰かに分け与えたりとか、吸い出したりするのは、魔族が得意とするところだな……。俺にはできない」
「そっか……それができたら僕の神力使って欲しかったけどな」
「それができたら俺もそうさせてもらいたかったよ。でも、ありがとう」
そう言うとセスは呼吸を落ち着けるように目を閉じた。
食事に手を付けようとはしない。
「食べるの辛い? 食べてから治してもらえば良かったよね、ごめん……」
「いや、最初にやらないと……回復にあてる時間が減るから大丈夫だよ。気にせずに君は食べていい」
そう言われても私のせいだし気が引ける。
「君が俺に付き合って食べなくても、俺の回復速度は変わらないんだから……気にせずに食べて。優しいんだな、シエル」
いつまでも食べない私を見てセスが苦笑いして言った。
確かに私が食べなくてもセスがその分回復するわけではない。ただ、申し訳ない気持ちがあるだけで。
「ごめん、僕がこんな怪我したから」
「君のせいじゃない。これは俺の仕事だから。このために俺はここにいるんだ。むしろ治癒術師として未熟で、君たちには申し訳ない。本当ならあの時に治してあげなければならない怪我だったのに」
ふぅ……と大きな息を吐いてセスはお弁当の蓋を開いた。そうしないと私が食べないと踏んで無理をしているのだろう。
これ以上気を遣わせるのも何なので、私も食べることにした。
「だからセスは班長にあんなことを?」
「そうだな……治癒術師として依頼されている以上、怪我人が出れば俺が治癒するしかない。だが、他の治癒術師なら助けられる命も、俺では無理かもしれない。だから、怪我人を出したくない。それでも……」
ここで一度セスは話を切った。
この先を続けようか否か、迷っているように見える。
私はお弁当を食べながら、次の言葉をただ静かに待った。
「……いや、なんでもない」
話の内容的に言いにくいことは分かる。
きっと私のためにそれを悩んだのだろう。
「聞かせてよ。それを聞いたのは僕なんだ。その答えが何でも受け止めるよ」
言い淀んだセスに話を促すと、セスは逸らしていた視線を私に移した。
どこか悲しげに見えるその瞳は、私の目を真っ直ぐに見つめている。
そしてゆっくりと口を開いた。
「……それでも、騎士団はあくまで、戦闘はサポートに留めるようにと俺に念を押した。この依頼の主体は君たちであるべきだ、と。確かにそういう契約の元、君たちもここに来ているんだろう。死ぬかもしれないことを承知の上で、ここにいるんだろう。でも、死んだら終わりだ。いつどこで、どんな風に命が終わるかなんて分からない。ある日突然、理不尽に命を奪われることだってある。弱いものは死に、強いものが生きる。そんな世界だ」
重い。セスはそういう世界を生きてきたのだろうか。いや、今私がいるここがそういう世界なんだろう。
ゲームオーバー=死、そんな世界。私も分かっているはずだ。
分かっていて、ここにいるはずだ。




