第48話 怪我・2
セスが右の二の腕を消毒して針を刺す。
前世だと「チクッとしますよ」とかよく言われるものだけど、この世界にそういう風習はないようだ。全くの無言でいきなり打たれた。
この世界の加工技術はさすがに前世の世界には及ばないのか注射針は太く、結構痛い。刺すのも痛いし液体が中に入ってくるのも痛い。おまけに針を抜くのも痛い。
「10分くらいで効いてくるだろう。あとは傷口に包帯を巻いて終わりだ」
セスは注射器を片付けて、代わりにガーゼと包帯を持って来た。
「もしまた出血するようなら言ってくれ」
傷口を消毒し、包帯を巻きながらセスが言う。
「分かった……。あー……もう、痛い……怪我ばっかりだ……。あんな風に術を貫通されるなんて思わなかった。はぁ、痛い……」
思わず愚痴る。
昨日といい今日といい怪我が続くし、正直術を破られてショックが大きい。
「手の平は神経が集まっているから痛みも強いだろう。痛み止めが効くまでの辛抱だ。まぁ、切れてからも痛いと思うけど。はい、終わったよ」
「ありがとう」
「どういたしまして。戻れそう? もう少し休むならガヴェインには俺から言うよ」
セスが道具を片付けながら問う。
「大丈夫、戻るよ」
「そう。まぁ、無理はしないようにね」
床に置いておいた剣を手にして腰にあるホルダーに取り付けながら、セスは苦い笑みを浮かべて言った。
セスこそ大丈夫なのだろうか、まだ呼吸は少し荒い。
走って乱れたならすぐに体力も回復するが神力を消費したことによる疲労はすぐには回復しない。
「セスは大丈夫なの? まだ苦しいんじゃない?」
「君が温存させてくれたから大丈夫だよ。ありがとう」
セスはそう言うと背を向けて広場へと歩き出した。私もそれを追う。
外に出ると横穴側に待機していたらしいガヴェインが走って来た。今は敵もいない。
「シエル、大丈夫か? お前は向こう側に行くといい。ニコラをこちら側に寄越そう」
私の手に巻かれている包帯に目をやりながらガヴェインが言った。
怪我をしているから直接戦闘する機会が少ない死体処理の方に、ということか。大丈夫と言いたいところだけど足手まといになってもな。ガヴェインの指示に従おう。
「ありがとうございます。すみません」
「その前に全員を集めて話をしたい。向こう側のやつらを呼んでくるから待っていてくれ」
そう言ってガヴェインは向こう側のメンバーを呼びに行った。
なんだろう。
「シエル大丈夫か?」
その間にパーシヴァルたちが近くに来て声をかけてくれた。
「あぁ……うん、ありがとう」
「シエル、助けてくれてありがとう。ごめん」
エレンが一歩前に出て私に頭を下げた。
普段捻くれた発言が多い彼女だけど、そうやって素直に言葉を言えるんだな。
「どういたしまして」
それだけを答えた。
それ以上の言葉を言う立場でもないし、言えるほどの動きもできなかった。
「よし、ちょっとみんないいか」
向こう側のメンバーを連れて戻ってきたガヴェインが口を開いた。
フィリオたちは私の怪我に目をやって何か言いたげだったけど、ガヴェインが話を始めたので閉口したようだ。
「話したいのはリザードマンについてだ。さっき戦って分かったように、リザードマンは知能が高い。やつにとって厄介な術師から先に潰しにくる。だがリザードマンに対応できるだけの回避能力を持った術師はこの討伐隊には少ない。だから死者が出る」
ずいぶんと耳が痛いことを言っている。事実なことは間違いないのだろうけれど、怪我をした術師としては心に来るものがある。
「後衛の4人、リザードマンにターゲッティングされたら自分の命を守ることに集中しろ。攻撃を避けられないのなら、腕の一本を犠牲にしても急所を守れ。さっきのシエルみたいに」
私は別に腕を犠牲にして急所を守ろうとしたわけではないのだけど、まぁ、あの行動は間違ってはいなかったと言うことか。
ニコラたちは何も言わなかったけれど、それぞれ頷いていた。




