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第47話 怪我・1

「シエル、傷を見せて」


 私の方へとやってきたセスが手を差し出す。

 私は素直にズキズキと痛む右手をセスに預けた。血がポタポタと落ち、地面に染みを作っている。


「……っう……」


「シエル! 大丈夫か!?」


 アイゼンたち、そして向こうの壁側からもガヴェインが駆けつけてきた。


「大丈夫です……。セス、治癒術は使わないでいい……。これくらいなら、大丈夫だから」


 と言いつつもかなり手が痛むのだが、昨日の痣を治すだけでセスは息を少し乱していた。この傷を治したら神力の消耗はそれ以上になるだろう。神力を消費すればそれに比例して体力も消費してしまう。

 痛みはあるが、命に係わる怪我ではない。いざというときのために温存しておいてほしい。


 痛いけど。やばいくらいに痛いけど……。


「……分かった。じゃあ手当をしよう。こっちへ来て」


 私の意思を汲んでくれたのか、それとも元々そうするつもりだったのか、セスはすんなり頷いて横穴へと入って行った。

 この場を他のみんなに任せ、私もセスの後へと続いた。


「申し訳ないんだけど、傷口を水で洗い流してもらってもいいかな」


 奥の椅子に私を座らせるなりセスが言った。

 自分で神術を使ってやれと言うことだろう。左手から水を作り出し、傷口へと流し込んだ。水と一緒に血が洗い流されて地面へと落ちていくが、次から次へと血が溢れてくる。


「……は……っ」


 傷口が痛む。さっきから嫌な汗が止まらない。


「もういいよ。ありがとう。本当に治癒術をかけなくていいの?」


「……これ治したら、結構しんどい?」


 セスの申し出にちょっと心が揺らぐ。

 昨日治癒術で痛みが嘘のように引いたのを思い出す。正直あんなもの痛いに入らないほど今痛い。


「多少呼吸が苦しくなる程度だろう。1時間くらいで回復するんじゃないかな」


 じゃあ、と言いかけて少し考える。

 みんなの前でやらなくていいと言ってしまったし、その1時間に次の怪我人が出る可能性だってある。

 もしそれが命にかかわる怪我だとして、今ここで自分に使わせてしまう神力のせいで助からないとかなったら嫌だ。


「いや、いい……。温存できる神力は温存しといてほしい」


「分かった。じゃあせめて止血だけは治癒術でやろう」


 そう言うとセスは私の手を取り、手をかざす。

 淡い光が手の平を照らしたのと同時に、流れ出ていた血がスゥっと止まった。

 セスは久しぶりに運動した人が50mを全力疾走したくらいに息を乱している。いや、例えがおかしいかもしれないけど、本当にそんな感じに息が切れている。


「骨も折れていそうだな。止血しただけだから痛みはあまり変わらないだろう。痛み止めを打つか?」


 痛み止めを"打つ"?


「注射ってこと?」


「ああ。効くまでに少し時間はかかるし、一度使ったらしばらく使えないが3〜4時間は効いているだろう」


 一度使ったらしばらく使えないとか、モルヒネ的なやつかな?


「セスがやるの?」


「もちろん。心配か? 俺は一応医術師でもあるんだけどね」


 まじで。治癒術師で医術師なんてそんなダブルなことがあるのか。


「Sランク冒険者で治癒術師で医術師なんて何者……」


「治癒術師は大体みんな医術も学ぶものだ。全てを治癒術で治していたのでは神力がもたないからね。特に俺は治癒術が得意ではないから余計に医術が大事になる」


 思わず呟くとセスは苦笑いして言った。

 なるほど。普通はどちらか1つなのかと思っていたけど、そういうものなのか。知らなかった。


「じゃあ、お願い」


「分かった。ただし、もし痛み止めが効いてる間にまた怪我をしたらすぐ俺に見せにきて。痛みを感じにくくなるから重大な怪我でも動けてしまう」


 そんなに強い薬なのか。なんだか怖いな。


「分かった」


 セスは注射器と小瓶、消毒液を持って向かいに座った。

 小瓶の蓋を開け、中の液体を注射器に移している。


「腕出して」


「腕に打つの?」


「ああ、二の腕に打つ」


 てっきり傷口の近くに打つのかと思ってたけど違うのか。

 右手が痛むので服を脱ぐのにまごまごしていたらセスが手伝ってくれた。

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