第44話 手合わせ・2
「いいってお前……動きが鈍って任務に支障が出るほうが怒られるだろ……」
「…………」
正論だ。
アイゼンの言葉にぐうの音も出ない。
「私のせいだからな、私からセスに頼もう。すまなかったシエル。お前なら避けられると思っていた」
「いや、ごめん、避けられなくて……。というかこんな風に前衛の人と手合わせしたのは初めてで……気というものがあまり分かってなかった」
何を根拠に私がそれを避けられると思っていたのかわからないが、素直に頭を下げるベルナに私も頭を下げた。
さすがに"気"は未知の世界だったな。
「そう言えばお前は気とは何かと前に聞いていたな。すまなかった」
「もういいよ。大丈夫だから」
とは言っても体を動かすと痛む。
やはりこのまま任務に就くよりはセスにちゃんと診てもらったほうがよさそうだ。
「でもセスの部屋がどこか分からないな」
アイゼンの呟きに私たちも頷く。
どうやら騎士団の人たちは別の場所で寝泊まりをしているようだ。
セスは騎士団の人間ではないが、本来騎士団の人間である治癒術師の代わりとして入っているのでガヴェインたちと同じ宿舎で寝ているのだと思われた。
正確な場所も分からなければ、もちろんそこのどの部屋なのかも分からない。
「夕食が終わったタイミングで声をかけてみよう」
ベルナの言葉で私たちはひとまず解散となった。
夕食が終わり、お風呂までの時間を自由に過ごすために各々が行動を始める。そのタイミングを狙って私たちはセスへと声をかけた。
「セス、ちょっと頼みたいことがある。ついてきてくれないか」
「……あぁ、構わないよ」
ベルナの申し出に表情も変えず何も聞かず、セスは私たちについてきてくれた。
場所は3班専用の会議室だ。今は会議をすることもないので、誰かが来ることもないだろう。
「頼みたいことって何かな」
部屋に入るとセスは両手をポケットに入れ、壁に寄りかかって言った。イケメンがやるとそういう仕草すら絵になる。
「ちょっと言いづらいんだけど……」
「なら、当ててみようか?」
「えっ?」
切り出したものの言い淀んだアイゼンを見て、セスは予想外の言葉を口にした。
そして青い瞳が私を捉える。
「シエル、怪我をしているだろう。だから君たちは俺を呼び出した。違うかな?」
その答えがドンピシャすぎてドキッとした。
別に出血をしたような怪我ではないから血の匂いもしなかったはずだ。しかもこの場には私だけではなくアイゼンもベルナもいる。なのに一体なぜ私が怪我をしていると断定できたというのか。
「なぜ分かった?」
「シエルの歩き方に違和感があったから。まぁ、長いこと医術に携わってきた者としての経験かな」
ベルナの質問にセスは自嘲的な笑みを浮かべた。
そういうものなのだろうか。確かに体を動かすと痛むので庇うように歩いていたかもしれない。
「まぁ、診ようか」
セスが壁から体を離し私の方へと歩いてきた。
「……お願いします」
私は服をまくり上げ、傷をセスに見せた。
胸からお腹にかけて赤黒く痣になっている。本当に木刀で叩かれたかのように細長く斜めに入っていた。
「…………」
「これは私が悪いんだ。シエルのせいじゃない。シエルを責めないでくれ」
無表情で痣を見つめて何も言わないセスに、ベルナが早口で捲し立てた。
「そんなに慌てなくても別にそのつもりはないよ。悪いけど上を全部脱いでもらってもいいかな」
ベルナの様子に苦笑いしてセスが言う。
私は言われるがままに服を脱ぎ、上半身裸になった。だいぶお風呂で慣れたとは言え、こんな風にみんなの視線が集まるととても恥ずかしい。
「ちょっと腕を見せて」
セスは差し出した私の両腕を順に持ち上げて、傷がないかを確認し始めた。
「それで、何があったのかな。これは何かの攻撃を無防備に受けたような跡に見える。普通は本能的に腕で庇ったりするものだが、そうしたような形跡もない」
そう言ってセスはベルナとアイゼンを交互に見た。
セスとしては2人のどちらかがこの傷をつけたことは予測しているのだろう。




