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第36話 3班の治癒術師・2

 沈黙が流れた。


 確かに班のためを考えたらガヴェインの言う通りなのだろうけれども、目の前で傷ついた人を見捨てろというのはあまりに残酷だ。治癒術師にとっても、そういう怪我を負う可能性を持っている私たちにとっても。しかし戦場ではそうしなければ犠牲が増えるということなのだろう。


「……それで、なぜその補充要員が騎士団の人ではなく、冒険者なのですか?」


 沈黙を破ったのはリーゼロッテだった。


「治癒術師はもともと数が少ない上に、デッドライン遠征に志願する者も少ない。突然の欠員ですぐに見つからなくてな。今回はヴィクトール隊長の知り合いだったセスに急遽要請したというわけだ」


「そうだったのですね」


 こういう組織は命令して強制的に遠征させられるものと思っていたけれど、そうじゃないんだな。というか、志願する者が少ないのか……。治癒術師は需要が高いからわざわざこんな辺境で仕事をしたくないということかな。


「質問がなければこれで解散とするが何かあるか?」


「1ついいですか?」


「なんだ? アイゼン」


「セスさん、騎士団の人間ではないあなたに聞きたい。あなたも、助かるかどうかわからない人は治癒せず力を温存するんですか?」


 再び沈黙が流れた。

 セスは、別段表情を変えずにアイゼンを見つめている。アイゼンもまた、真剣な目でセスを真っ直ぐに見つめていた。


「……そうだね。申し訳ないが俺もそうする。俺の実力ではそうせざるを得ない、と言ったほうがいいかな」


「なるほど、分かりました」


 アイゼンはなぜそれを聞いたのだろう。セスの返答によって何がどう変わるというのだろうか。


「他に質問はあるか?」


 ガヴェインの言葉に手を上げる者はおらず、解散となった。


 今日の夜から任務が始まるため、午後からは眠らなければならない。いったん部屋に戻った私とニコラだが、緊張からか妙に落ち着かなかったため、午前中はちょっとしたトレーニングをすることにして部屋を後にした。


 宿舎から出たところで、少し先の広場に人が集まっているのが見えた。その中にセスの姿もある。

 3か月の任務を終えた前3班かな。 


「きっとあれ、任務が終わった前の3班だよね。これから帰るのかな」


「うん、きっとそうだろうね」


 ニコラの言葉に、「僕たちも帰る時はあんな風に全員そろって帰ろう」と口にしようとして寸前で止めた。あの3班はあの場にちょうど10人いることから班員に欠員は出ていなさそうだけれども、治癒術師が亡くなっている。

 長い期間を共にした仲間だったんだろうし、任務が終わっても手放しで喜べないだろうな。ましてや、班員の誰かを助けるために命を落としてしまったのだから。

 騎士団の規約としては見捨ててでも力を温存するのが決まりだと言うけれども、私は自分の命を懸けてまで他人を助けた治癒術師はすごいと思うし、敬意を払うべきだと思う。

 私だったらきっと誰かのためにそんなことはできない。


「……行こうか」


 あまり見ているのもなんなので、さっさと立ち去ることにした。

 これから任務なので無理をせず、ニコラと2人で軽く体を動かしたりして過ごした。術師と言えど体力は必要だ。毎日山登りをすることにもなるのだし。


 昼食を摂り、また部屋へ戻ってベッドへと入った。

 この世界は目ざまし時計もないし、寝坊したらどうしようなんて考えていたが、いきなり昼に眠れと言われてもさすがに眠れなかった。

 たびたび寝返りを打つ音が、ニコラからも聞こえてくる。

 結局私もニコラもあまり眠れずに、夕食の時間になってしまった。


 食堂には3班のメンバーだけでなく、ガヴェインもセスもいた。一緒に食べるようだ。

 席に着くと、やはりみんなあまり眠れなかったみたいで口々にそんな報告が聞こえてくる。


「まぁ、初日はしょうがないな。次からは疲れて嫌でも眠れるようになる」


 ガヴェインが苦笑いしながら言う。

 それはそうだろうな。山登りして討伐して下山だもん。疲れるに決まってる。

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