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第281話 終焉への道・4

「それで温情、だっけ? 別に俺はかけてあげてもいいんだけど、これは命令なんだよね。さすがに俺も逆らえないかな。その代わり、君たち2人の命は助けてあげるよ。シエルちゃんが素直に俺の言うことを聞いてくれれば、ねっ」


 言い終わると同時に、ローレンスは左手の剣をセスの太ももへと一気に突き刺した。


「ぐっ……うぅ……っ!」


 セスの顔が苦痛に歪み、抑えようとして抑えきれなかったような声が漏れた。


「セスっ……! や、やめて!!」


「もっといてほしいんだけど我慢強いね、セス君。結構痛いことしてると思うんだけど」


 ローレンスがセスに刺した太ももの剣を深く埋め込む。

 貫通して背後の木に刺さっているはずの剣先が、まるでバターにナイフを入れているかのように押し込まれていく。


「ぅ……あああぁっ……!」


 セスが、叫ぶ。


「やめろ!!」


「ローレンス、てめぇ……っ!」


「そうそう、それでいい」


 セスが叫んだことに満足したのか、それとも私とヨハンが同時に制止の声を上げたことに満足したのか、あるいは両方なのか、ローレンスは気持ちの悪い笑みをより一層深めた。


「……じゃあ、本題に入ろうか、シエルちゃん」


 笑みをスッと消して、ローレンスが再びセスの血で剣を作る。そしてセスの足に刺したものよりも大分短いそれを、私の足元まで放り投げた。


「その剣で自分の命を絶ってくれる?」


「……っ!?」


「なっ……!?」


「なん、だと……っ!」


 ローレンスの言葉に私だけじゃなく、セスとヨハンも驚愕の声を上げた。

 2人ともローレンスの目的は聞かされていなかったようだ。


「君を普通に殺したら、転生した君の魂はまた同じようにミハイルに引き寄せられるかもしれない。この世界はミハイルを失う訳にはいかないんだ。だから君には今ここで、自死によって魂を滅してもらう。君が自分で命を絶つまで、俺はセス君を痛め付けるからね」


「……っ!」


 この展開は、予想していなかった。

 ローレンスがセスとヨハンを人質に取ったのはそういうことだったのか。


「逃げろ、シエル……! ローレンスが、自死を求めてるなら……君は逃げられる……! 逃げて……ミハイルを殺すんだ……!」


「え……?」


 セスの言葉に思考が停止する。

 2人を置いて逃げて、ミハイルを殺す? 2人を、見捨てて?


「分かってるよね、シエルちゃん。逃げたら2人を殺すよ」


 ローレンスがセスの足に刺した剣をぐるりと回した。


「ぐっ……あ……ああぁ!」


 セスの苦痛に叫ぶ声が、耳に突き刺さる。


「や、やめ……っ」


「ぅ、くっ……行く、んだ、シエル……っ! ミハイルを殺せば……君は、自由に……なれる……っ。生きて……生きてくれ……!」


 セスが痛みに耐えながら言葉を絞り出す。


「シエルちゃん、どうする? 逃げる? そしたら次は誰を痛めつけようかなぁ?」


「くっあぁっ……ああぁぁっ!!」


 ローレンスがさらに剣を回す。何度も、何度も。


「やめろローレンス!! もう充分だろ!! もう……やめてくれ……っ!」


 耳に届くセスの悲痛な叫びが耐えられないのだろう、ヨハンが顔を背けて懇願した。


 私も、耐えられない。


 あの時にミハイルを殺せていたら、この結末にはならなかった。

 もし殺せなくともセスたちにすべてを話していたら、セスの心を受け入れていれば、違う結末もあったかもしれない。


 すべては私が選択を誤った結果だ。


「魔王ローレンス……約束してくれますか……。僕が自分の命を絶ったら、2人を殺さずに解放してくれると」


「……シエ、ル……っ」


「シエルお前……っ」


「いいよ。魔王ローレンスの名にかけて、2人を殺さずに解放すると誓約しよう」


 2人の言葉を遮るように紡がれたローレンスの言葉は、不思議と森の中に響いたように聞こえた。


 膝を折って足元に落ちている剣を拾う。

 セスの血で作られた、剣。


 それを握って自分に向ける。


 私には、ここで2人を見殺しにする選択肢は、ない。


「ミハイルを殺せなくて、ごめんなさい。夢で見たことを、話せなくてごめんなさい。僕のせいでみんなをこんな目にあせてごめんなさい……! 僕は弱かった。僕は……!」


「っ……シエル……やめ、ろ……やめてくれ……っ!」


「セス、僕を愛してくれてありがとう。こんな結末を選ぶ僕をどうか許してください……」


 最後にセスの姿を焼き付けてから、私は目をきつく閉じてぐっと剣を握り直した。


「ユイ……っ!」


 私を呼ぶセスの声は、ひどく切なかった。



 ごめんなさい。ごめんなさい、セス。

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