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第279話 終焉への道・2

「……2人の所に、連れて行ってください」


 深呼吸をしてからそう告げて、一歩二歩と前へ出る。


「ま、待って……待って! あたしも行く……!」


 すがるようにレクシーが私の右腕にしがみ付いた。

 その手から、震えが伝わってくる。


「貴女と一緒に行くのは、僕だけでいいですか?」


「貴方お1人でも、そちらの方とお2人でも、ご自由にどうぞ。主からは貴方を連れて来るように、とだけ言われておりますので」


「主……?」


「ならあたしも行く!」


 レクシーが強く腕を掴む。


「……レクシーはここで待ってて。ヨハンさんは僕が絶対に助けるから、この場所を綺麗にしておいてあげて」


 そう言いながらレクシーの手をほどく。

 強く掴まれていると思ったけれど、震えているからなのか存外簡単にその手はほどけた。


「シエル……っ!」


「セスのことも、助けたいと思ってる。だからお願いレクシー。2人のことを、お願い」


「そ、そんなっ……シエルは帰ってこないみたいな言い方……!」


 今度は私に抱き付いてレクシーが言う。私の胸に顔を埋め、泣きじゃくっている。


「……うん。僕は多分、帰ってこない。だからさよならだ」


 驚くほど冷静な自分がいた。

 死ぬ覚悟ができていた訳ではないが、おそらくそれを目的としたリリスに大切な人たちが傷つけられたからだろうか。

 あの2人を早く助けたい。その気持ちが今は一番強くある。


「じゃあなおさら行かせられない!! あたしが大切なのはヨハンだけじゃない! セスだって、シエルだって大切なんだよ!!」


 強く、痛いくらいに抱きしめられる。


「ありがとう。ありがとね、レクシー。でも僕は……間に合わなかった。レクシーのお陰で大切なことに気付けたけど、もう遅かった。だからレクシーはちゃんと伝えて。ヨハンさんに感謝の気持ちを。レクシーはまだ、間に合うから」


「シエル待って……っ」


 言いかけたレクシーの体がズン、と重たくなった。

 床に倒れないようにと慌てて抱え込んだが、ぐったりとして動かない。


「レクシー!?」


「眠らせました。お1人で来るのでしょう?」


 白い女性が言う。

 確かにレクシーは眠っているだけのようだ。胸がわずかに上下していて、ちゃんと呼吸していることを示している。


「…………」


 レクシーの体を持ち上げ、ベッドへと運ぶ。整えられていたはずのシーツはだいぶ乱れているが、今は仕方がない。そのままレクシーの体を横たえて、掛け布団を掛ける。


「さよならレクシー。ありがとう……」


 肩にかけたままだった鞄からいつも着けている香水を取り出し、レクシーの枕元へと置く。いい匂い、と言ってくれたルピアの香水だ。

 こんな風に形見を置くなど余計に辛くさせてしまうかもしれないが、できればこの先も私のことを覚えていて欲しいと思った。


「そろそろよろしいですか?」


 白い女性が聞く。

 この女性が誰なのかは分からないが、ずいぶんと空気の読める人だ。

 人形のように無表情で声にも全く抑揚がないが、レクシーを傷つけずに眠らせてくれたし、別れの挨拶も黙って待っていてくれた。

 だからと言ってお礼を言うつもりもないが、ひとまず今はこの女性に従おう。


 触媒の腕輪を鞄に入れ、ベッドの足元に置いた。

 いつかセスがこの鞄を開けた時、腕輪を見つけて形見として持っておいてくれることを期待して。


「はい。連れて行ってください」


 本当は短剣だけでも持って行きたかったが、毒を飲んで眠っている間に回収されたようで今は身に付けていない。どこにあるのかも分からないのでそのまま行くしかない。


「手を」


 女性がスッと手を差し出した。

 手を取れ、という意味だろう。

 素直に女性の手の平に手を置くと、その手は恐ろしいほどに冷たかった。

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