第272話 世界の真実
「色々と聞きたいことがあるのは分かるが、全てを説明している時間はなくてね。早くしないと間に合わなくなる」
私の混乱している様子を見て、ミハイルと名乗った少年が諭すように言った。
「間に合わなくなる?」
「本来ここには、ここを作った神すらも入れない。それなのにも関わらず君は幾重にも張られている結界を突破してここに来てしまった。監視者である私の前に、精神体である君がいる。それはすなわち、私を殺せる存在であるということだ。監視者とは神の目。神の目に干渉してしまった以上、君は神に消される運命にある」
「……どういうことですか? 僕は、自分の意思でここに来たんじゃない……。今回はそうかもしれないけど……今までは違う。僕……僕は、死ぬんですか?」
自分でも何を言っているのかよく分からない。今言うことがそれなのか、とも思う。でも転生者を監視しているというこの少年に、神の目だというこの少年に"消される"などと言われたらそこには恐怖しかない。
その言葉を、信じざるを得ない。
「そうだね。君は自分の意思でここに来たのではない。私が君を"視て"いたら、君の夢が呼応してしまった。私の願いに、呼び寄せられてしまった」
「……意味が、分からない……」
あぁ、声が震えている。
怖い。
訳が分からなすぎて、怖い。
「転生者は何かしらの特殊能力を有している。それは君もヨハンから聞いただろう。私はミハイル・リュミエールであった時から、他の転生者を"視る"ことができるという能力を有していた。だからその力を、神に利用されたんだ」
「神……ミトスってことですか?」
「いいや、違う。地界に神は存在しない。神とはアルディナでありルブラでもある。名はリリス」
「……どういうことですか? アルディナとルブラは同一人物だと?」
「そうだ」
初耳だ。
恐らく、世界中の誰も知り得ないことだろう。
「遥か昔、リリスは2種類の大地を創った。片方を天界、片方を魔界と名付け、多種多様な種族を創り、それぞれに住まわせた。天族には自死を禁じ、必ず魂が輪廻するようにし、魔族には自死による魂の消滅を容認した。そしてこの2つの世界がどうなっていくのか観察していたんだ。いわゆる箱庭だね。そんなリリスの箱庭に、突然どこからともなく現れた地界が融合した。しかし天界と魔界の神であるリリスには、地界の存在を感知することはできても干渉はおろか、視ることすらできなかった。だからリリスはこの地界を、他の神が見捨てた大地と推測した」
「他の神が見捨てた大地……」
「今まで互いに存在すら認識していなかった天族、魔族、地族が地界を通して干渉できるようになってしまった以上、何とか上手いこと共存させていくしかない。しかしリリスには地界が見えず、干渉することができない。そこでリリスは自らの分身とも言える存在を創り上げ、地界へと送り込んだ。それが、かつての私にアルディナ語とルブラ語を教えた者たちだ」
「…………」
それが、その話に繋がるのか。
ヨハンの言い方では偶然のような感じだったが、そうではなかったようだ。
「ずっと私の側にいたその2人は、突然こんな世界に転生させられた私にとって、数少ない信用できる人間だった。だからその2人にだけは自分が転生者であること、何故かこの世界にいる他の転生者の様子を視ることができることを話した。初めは転生者という存在にすら驚いていた2人だが、やがて自分たちは天界と魔界を創った神の使いであることを告げ、私の力をその神のために貸してほしいと願った。私はその2人の願いならばとそれを承諾した……。なのに、結果はこうだ!」
「……っ」
突然、ミハイルの顔が歪められた。
憎悪に満ちた顔で、私を真っ直ぐに見据えている。
「私が人としての生を終えた後、リリスは私の魂をこの空間に閉じ込め転生者の監視をさせてきた。世界にとって都合の悪い転生者は消されるという、ヨハンの推測は総じて正しいよ。ゼノやガスパルだけじゃない……私が視たことによって害と判断され、この世界から消された転生者は数多く存在する。君もまた、そうなる運命にある1人だ」
喉の奥から絞り出すように紡がれたそれは、死の宣告だった。




