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第271話 夢を見るためには・2

「初めて夢を見たのは酒を飲みすぎて倒れた時、と昨日言ってただろ? だからまずそれを試してみるのがいいんじゃねぇかと思う」


「なるほど……お酒をたくさん飲んでみる、ってことですね」


「ああ。まぁ、医者として推奨したくねぇが、重傷にさせるくらいならまだこっちの方がいい」


 確かにそれなら苦痛もなく危険性も少ない。いい方法かもしれない。


「お前の考えはどうだ? セス。それでも反対って言うなら、これ以上は何も言わねぇよ」


「……シエルが自分に関係がないことを証明したい、と言うのなら酒を試してみるくらいのことはしてもいいかもしれない。ただ、それで夢を見れずに結局傷を負わせなければならないと言うのなら、俺は反対だ」


「なるほどな。じゃあまずは酒を試してみるってことで」


 セスの返答にそう結論付けるとヨハンはおもむろに立ち上がり、棚の中から大きめの瓶を取り出してテーブルの上に置いた。


「早速飲むぞ」






 何の話をしていただろうか。


 4人で話をしながらお酒を飲んでいて、急激な一気飲みなんてしていないはずなのにずいぶんと記憶が曖昧だ。


 私がどこの里の生まれかと聞かれてシスタスの近くだと答えたら、"以前カルナの医術学校で講師をしていた時代に、里の医者であるルザリー先生に医術を教えたことがある。だから里で転生者だと明かしていたら俺の話をそこで聞けたはずだ"と言われて戦慄が走ったのは覚えている。


 他にはどんな話をしたっけな?


 ユラユラと揺れている感じがして気持ちが悪い。

 誰かが私の名前を呼んでいる。それは分かっているのにどうにも返事はできそうにない。


 あぁ……気持ちが悪い。体が重い。


 もう二度とお酒なんて飲みたくないな。






「本当にヨハンは優秀だ。もう少しで間に合わない所だった」


 背後から聞こえた聞きなれない声に、混濁していた意識は急速に覚醒した。


 だるく重かった体はフッと軽くなり、気持ち悪さも嘘のように消え去っている。

 目を開くと白しか映らず、天井も床も何も分からない空間だった。


「待っていたよ、シエル」


 再び聞こえた声に振り返れば、あの夢で最後に見た少年が微笑み立っていた。

 背景と同化してどうなっているのかよく分からない白い服を着た、黒い髪の少年。


「…………貴方は」


「……私はミハイル・リュミエール。かつて、そう呼ばれていた者だ」


「ミハイル・リュミエール……!?」


 つい昨日、ヨハンから聞いた名前だ。2000年以上前に存在した過去の人間で、この世界で最初に名乗りを上げた転生者。

 私が出会うことはないはずの人間だ。


「でも今は違う。姿は確かにミハイル・リュミエールが幼少であった頃のものだが、当時の肉体はすでに滅んでいる。この体は私の魂を入れるための造りものにしか過ぎない」


 姿からは似つかわない大人びた言葉遣いで紡がれた言葉に、私は返す言葉を失った。


 一歩、少年が私に近づく。それに合わせて黒い髪が揺れ、衣服が擦れるかすかな音も聞こえた。造りもの、と言ってはいたが実物と何も変わらないように見える。


「ここは一体? 何故、貴方が……僕はどうしてここに?」


「私は君たち転生者を監視する者。ここはその私を閉じ込めるために神が作り上げた檻。誰にも侵入されないよう、幾重にも結界が張られている場所だ」


「転生者を監視する者……? 神が作った檻……?」


 まさか本当にヨハンの推測通り、転生者を監視する人間(?)や、それを支配する神が存在していると? いや、神が本当に存在しているというのは分かっていたが、いきなりこんな風に関わり合いになるとは思っていなかった。


 しかし同じ転生者であったはずのミハイル・リュミエールがその監視者だというのはどういうことなんだ?


 訳が分からない。

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