第269話 裏側に巣食うもの
「今日の夕飯は何にしよっか?」
昼食が終わったと同時に患者が来てヨハンもセスも診察室に行ってしまったので、私とレクシーは早々に買い物に出た。
ちなみに食堂横にある倉庫から出入りしたので私たちはその患者を見ていない。
メイン通りからはかなり離れた場所にある、地元の人間しか訪れないであろうこじんまりとした商店街をレクシーと並んで歩く。店先の品物に目をやると、大陸が違うからかカルナやシスタスでは見かけなかった食材がちらほらと目についた。
「夕飯かぁ……。作るにしても見たことのない食材が結構あるなぁ。これはどんな料理に合うのかな?」
「んー、これだったら煮込み料理がいいかな?」
「じゃあこれは?」
「こっちならお肉と一緒に蒸したりするのがいいかも」
気になるものを指さしてレクシーに問うと、例をあげて丁寧に教えてくれた。
まるでデートでもしている気分だ。
「……言いたくなかったらいいんだけど……レクシーはさ、あそこに来る前は何をしていたの?」
あれこれと話し合ってメニューを決め、食材を揃えて帰路についている途中、私は躊躇いがちに口を開いた。
見た目的に私とそう変わらない、もしかしたら私よりも幼いかもしれないレクシーは死ぬほどの怪我を負ってヨハンの元にやってきたという。そしてヨハンに命を助けられた対価として、15年という期間従事することを科せられている。
この話が一体何年前の話なのかいまいち分からないが、それでもレクシーが今より幼い子供であったことは間違いないはずだ。そんなレクシーが何故そこまでの怪我を負って、しかも初見ではたどり着けないであろうヨハンの診療所へやってきたのか。
「……んー……言いたくないってことはないけど……あんまり楽しい話じゃないよ?」
声のトーンを落として、レクシーが答えた。
深入りしない方がいい、と暗に言っているように聞こえる。
「辛い話のようだから、これ以上はいい。無神経に聞いちゃってごめんね」
「あたしは別に大丈夫なんだけどね! でもヨハンのところに来る人は、みーんな何かしらの闇を抱えてるから、深入りしない方がいいよ。シエルにはそんな暗い場所は似合わない」
スッと真顔になってレクシーが私を見上げた。
「……レクシー」
射抜くような強い力を持った瞳だった。
今までのお茶らけた様子は全て演技だったのかと思わせるほどの真剣な表情だ。思わず戸惑ってしまい、言葉が出ない。
「さ、帰って一緒にご飯作ろ?」
いつもの声色でそう言って、レクシーはにっこりと笑った。
その無垢な笑顔の裏に辛く苦しい何かがあるのだろうと思うと、ひどく胸が痛んだ。
誰かと一緒に料理をするのは、意外にも楽しいんだと思った。
相手がレクシーで、そのレクシーの料理の腕前が冴えているということもあるかもしれない。
動物の形をした可愛いハンバーグを作ったりして、これをヨハンとセスはどんな顔で食べるんだろうね、なんて話しながら大いに盛り上がった。
ヨハンの診療所は想像していたよりも頻繁に患者が出入りしている。
今日は入院が必要なほど重傷な患者はいなかったみたいだが、セスもヨハンもこちらに来ることもなく、夕食時まで顔を合わせることはなかった。
「おつかれさまー! 見て見て、可愛いでしょ? シエルと作ったんだよ!」
そう言いながらレクシーが並べた可愛い形のハンバーグを、2人は複雑な表情で見つめている。
「へぇ……」
『ラブラブ同棲カップルじゃあるまいし……』
興味なさげに呟いたセスに対し、ヨハンは呆れたように日本語でそう呟いた。
反応が淡泊すぎて正直がっかりだよ!




