第268話 仮説の真意・2
私には想像もつかないほどの長い時間、ヨハンは必死にゼノとガスパルの死の真相を追い続けてきた。そのヨハンが私が現れたことで真相に近づけるかもしれないと期待するのは至極自然なことだろう。
ヨハンがそうして過ごしてきた年月と、私が現れてからの時間では天秤に乗せるまでもなく1人で苦しんできた時間の方が重い。
『貴方はたくさんのことを私に教えてくれました。私に夢の人物と会うように勧めてくれた理由だって、裏はあれど嘘ではないと思いますし。私はその理由に納得ができたので、貴方が言うように夢の中の人物に会ってみようと思います。その結果が貴方にとって有益なものであるならば、喜んで情報を提供しますよ』
『…………』
私の言葉にヨハンは何も返さなかった。悲痛な表情のまま、手元のお茶を見つめて何かを考えている。
『……俺の話を聞いてそう思ったなら、今ここでした話をセスを入れてもう一度する。それでセスがお前の考えに同意すると言うのであれば、お前が夢の人物に会うための方法を考える。だが反対だと言うのなら、俺はこれ以上この件に踏み込むつもりはない』
長い沈黙の末に、ヨハンは私を見ないまま静かに言った。
『……どうして……?』
『お前たちは2人で話し合って夢の中の人物に会わないと決めたんだろ? ならここで独断せず、セスにも話を通すのが筋だ。あいつは本当にお前のことを大切に思ってる。だからあいつの意見も尊重してやってほしい』
まるでセスの親かと思うような言葉をヨハンは口にする。
でも確かにヨハンの言う通り、それは私が1人で決めることではなかった。
『確かにその通りですね。セスの気持ちを踏みにじるところでした。ありがとうございます』
『……じゃあ明日にでも時間を作って話すか。今日は遅い時間まで悪かったな。ゆっくり休めよ』
そう言いながらヨハンは自分と私の分のコップをシンクに置いて、食堂から静かに立ち去って行った。
そのコップを洗いながら考える。
1.ヨハンの仮説は本当に正しいのか。
2.転生者が皆持っていると言われている特殊能力、何故それが私にはないのか。
3.魔王や神クラスのものが関わっているのではないかと予想される私の夢は、一体何なのか。
4.その夢ことを詳しく知った先で、私はどうなるのか。そこにヨハンの求める答えは本当にあるのか。
考えると言っても、どれもこれも今の状態で答えが出せる問題ではない。正直、頭が痛くなりそうだ。
『寝よう……』
こういう時は一度頭をスッキリさせた方がいい。
そう思って割り当てられている部屋のベッドへ潜りこんだ。完全に病室なので、入院したかのような感覚に囚われて若干落ち着かないが、そんなどうでもいいことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちたようだった。
「シエル、おっはよー! 朝ご飯とお昼ご飯が一緒になっちゃったね」
食堂に入るなり、明るいレクシーの声が耳に響いた。
「おはようございます。すみません、寝坊してしまって」
目が覚めたら昼だった。
すでに座って待っていたヨハンにそう言うと、別に好きなだけ寝てればいい、と苦い笑みを浮かべた。その向かいに座るセスも同様の顔を浮かべている。
「ごめん、手伝うって言ったのに初日から寝坊しちゃって」
「いいんだよー! 疲れてたんだろうしね。ゆっくり休めたみたいだし、ご飯食べ終わったら一緒に買い物いこ?」
レクシーにも謝ると、まるで同棲し始めたカップルのような言葉が返って来た。
「あ、買い物? いい……のかな?」
確認するようにチラリとセスを見やれば、何故聞かれたのか分からないという顔で見つめ返された。
「いいよ? というか、何故俺にそれを聞くの? 俺は別に君の行動を制限するつもりはないし、自由にすればいいよ」
「そうだよね。ごめん、変なこと聞いた」
何だかここにいる間は建物から出てはいけないみたいな雰囲気を感じるのだが、それは何故だろう。
窓に格子があったり、入り組んだ裏路地にあったりして闇医者感が漂っているからそう感じるのだろうか。
「何だ、こう見えてセスは相当の束縛野郎だったのかと思ったが違うのか」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。まぁ、1人で出歩いたら帰って来るのに迷うかもしれないから、道を覚えるまでは誰かと一緒の方がいいとは思うけど」
茶化すようなヨハンの言葉にすぐさま反論しつつ、セスは目の前の昼食に手を付け始めた。




