第267話 仮説の真意・1
『俺は、お前の特殊能力と夢に何かしらの関連性があるんじゃねぇのかと思ってた。だからゼノとガスパルの話をすることによって、もう一度お前に夢の中の人物と会ってみることを勧めるつもりでいたんだ』
話を切り替えて、ヨハンがそう口にした。
『ゼノがそうであったように、特殊能力の種類によってはそれだけで危険と判断される恐れもある。夢や夢の中の人物は一体何なのか、それがお前にとって、世界にとって害となるものなのかどうか、すでに一歩足を踏み入れちまってる以上、ちゃんと知っておいた方がいいんじゃねぇのかと思ってな』
『そうだったんですか……。ありがとうございます。私のことをそこまで考えてくれて』
今日会ったばかりだというのに、ずいぶんとヨハンは親身になってくれる。アンジェリカやクロエとあんな別れ方をしたばかりなので、余計にそのありがたさが身に染みるようだ。
『……俺は今、ゼノとガスパルをこの世界から消し去る判断を下した人物は同一であるという見解を示している。それは、それだけの判断ができる力を持つ人物なら、ゼノが生きていた時代にも、ガスパルが生きていた時代にも存在していたであろうと思っているからだ。その仮説が正しいものだとして、お前は何故ゼノとガスパルが自分の身近にいた魔族に殺されたと思う? 何故判断を下したその人物は、直接手を下さなかったんだと思う?』
『えっ……? 何故……? えっと……』
お礼に対し、まさかそんな難しい言葉が返ってくるなど思っておらず、答えに詰まる。
しかしヨハンの顔は真剣だ。真剣に、私にそれを問うている。
『ゼノの話で言えば、天王や魔王を凌ぐほどの力を持っていたから身近な人を使って油断させたとか……? でもガスパルがそこまでの警戒が必要なほど力を持っていたとは思えない……』
『そうだな。ガスパルはモンスターから襲われないという特性を持ってはいたが、戦闘能力自体はそこまで高くなかった。まぁ、ドワーフだから力はあったと思うが、そこまで警戒するほどじゃない。だとすると、その人物は直接手を下さなかったんじゃなく、何かしらの理由で下せなかったとも考えられる。単純に考えて、地族であるゼノとガスパルに手を下せない人物とは?』
『魔王か天王?』
魔王と天王は地族に干渉できない、という決まりがあることを思い出し、ヨハンの問いに答える。まるで誘導尋問のようだ。あえてそれを私に答えさせる理由とは一体何なのだろう。
『その通りだ。魔王や天王なら人を操ることができたって不思議じゃないし、ゼノが生きていた時代にもガスパルが生きていた時代にも存在していたことだろう。だがゼノはともかく、ガスパルが魔王や天王にそこまでの悪影響を与えたとは確かに考えにくい』
『そうですね』
『そもそも、魔王や天王に転生者の監視や管理ができるのかどうかも怪しいところだ。じゃあそいつらを統括するルブラか? アルディナか? 魔王や天王以外に神の姿を見たものはいない、と言われているくらいだから、直接的に手を下さずそれを魔王や天王にやらせても不自然じゃないし、神ともなれば転生者の監視ができたっておかしくない。が、やはりガスパルが異界の神の逆鱗に触れるようなことをしていたとはどうにも思えない。となると、俺の仮説はそもそも根本から間違っているのか? ゼノとガスパルの死に関連性はないのか? それとも、本当にミトスが存在しているとでも言うのか?』
疑問形ではあるが、私にそれを問うているようには聞こえず、私はただ静かに耳を傾けた。
『俺はこの問いをもう何百回と繰り返した。情報を集めるために転生者に会ったらここに連れて来てほしいと懇意にしている人間に頼んだりもしたし、長く生きているであろうエルフやダークエルフの長を訪ねて回ったりもした。それでも、俺にはここまでが限界だ。これ以上の答えは出しようがない』
『…………』
『だがそこにお前が現れた。誰かに遠隔から夢が干渉された。それができるのは魔王か神か、そういう次元の存在の話だ。そうカムニ族が言い残した言葉で、俺はそこを突き詰めればこの答えに近づけるんじゃねぇかと思った。お前に"危険因子だと判断されないように夢の人物が何者なのかはっきりさせた方がいい"と言っていた裏でこんなことを考えてた俺に、お前は今でもありがとうと言えるか?』
痛みを耐えるような表情で私から視線を外し、苦しげに紡がれるヨハンの言葉はまるで懺悔のようだと思った。




