第265話 過去に存在した転生者・2
『お前はゼノ・カールトンという人物の話を聞いたことはあるか?』
私から外していた視線をスッと戻し、ヨハンは話を変えた。
男性の名前のようだが誰だろう。ヨハンが私にそう聞くということはある程度有名な人物なのだろうか。
『すみません、聞いたことないです』
『ゼノはルーク歴200年前後に生まれたヒューマで、後世まで名が遺っている転生者の内の1人だ』
ヨハンは年表に記載されている、ルーク歴200年の項目を指さして言った。
『ヒューマでありながら4大元素を全て扱うことができ、なおかつ剣の扱いにも気の扱いにも長けていて、天王や魔王よりも強いんじゃねぇかって言われていたやつなんだが……こいつはある日突然、恋人の魔族に殺された』
言いながらスッとヨハンが一段指をずらすと、そこには"ゼノ、恋人の魔族に突然命を奪われる(年数不明)"と書いてあった。
『……あっ……名前までは知らなかったんですが、天王や魔王をも凌ぐ力を持っていた転生者がいたってことはセスから聞いたことがあります。確か、恋人だった魔族の少女は、その人を殺した後に泣きながら命を絶ったって……』
ある日突然その人は恋人に殺され、そしてその恋人も後を追うように自ら命を絶った。セスが以前話してくれたその話は、記憶に深く残っている。
『ああ、そうだ。俺は……ゼノがこの世界にとって都合が悪いと判断されて、消されたんじゃねぇかと思ってる』
『……え?』
ヨハンから思いもよらない言葉が発せられて思考が停止する。
世界にとって都合が悪いと消される? どういうこと?
『け、消されたって誰に?』
『それは分かんねぇ。まぁ、言うなれば神か、それに等しい存在か。アルディナやルブラは実際に存在するわけだから、地界に神がいてもおかしくはないし、魔王や天王に準ずる存在がいたっておかしくない』
『どうしてゼノが消されたって思ってるんですか? それが確信できる何かがあったんですか?』
『……ルーク歴1805年、ガスパルという名のドワーフが生まれた。こいつは俺が出会った転生者の1人だ』
私の質問には答えず、ヨハンは1805年の項目まで指をずらして言った。
『このガスパルも、お前と同じように俺が転生者だと知って自分もそうだと来た人間の1人だった。以前からここによく来ていた魔族の紹介でな。俺が転生者について調べてるって言ったら協力してくれて、ガスパル自身の転生前と後のことを色々と教えてくれた』
私の焦りとは対照的に、落ち着いた様子でヨハンは淡々と話す。それが良くないことの前触れのようで、私の胸は酷くざわついた。
『ガスパルは元の世界でヘビースモーカーだったらしくてな。こっちの世界に煙草がないってんで自分で作っちまうようなやつだった。煙草に適した草を求めてルブラにまで行ったりして、何度も失敗して……何年もかかってやっといいのが出来たって俺のところに嬉しそうに持ってきたんだよ。それで、作った煙草を量産してヴェデュールの各都市で売り出し始めて……徐々に買い手もつくようになってきた』
懐かしむような、どこか悲しげにも見えるような表情でヨハンが言う。
きっとこの話は私がした質問と関係があるのだろうが、その答えを早く聞きたいような聞きたくないような複雑な気分に陥った。




