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第264話 過去に存在した転生者・1

『例えばアルディナと相互リンクがあるアルセノのリンク出現位置にいた人間はその瞬間にアルディナへと飛び、逆にアルディナ側のリンク出現位置にいた人間はその瞬間アルセノへと飛んだ。他のリンクも同様だ』


『じゃあ単独リンクが出現した場所にいて、自分とは違う属性の界に飛ばされた地族の人は……』


『……まぁ、想像通りだな』


 ヨハンは表情を変えずに視線だけ逸らしてそう言った。

 私たちがルブラに落とされた時のような感じか。そこから脱出できなければいずれ……。


『突然現れたリンクはすべての者を混乱させた。が、どこが相互リンクでどこが単独リンクなのかっていうのは調査によって早々に判明したらしい。しかしそうと分かっても言葉が通じず、異界の者と話もできない。そこで当時アルセノの国王だったルーク・リュミエールは、ミトスに来た天族と魔族に生まれたばかりである自分の息子ミハイル・リュミエールを預け、言葉を教えるように頼んだ。まぁ、どうやってそういう手はずになったんだか謎だが、そこはジェスチャーとか使ったんだろうな。よく分かんねぇけど』


『ミハイル・リュミエールって最初の転生者……!?』


『そうだ。それを機に同じような取り組みは各所で行われ、数年後にはその子供たちが通訳となり3界の状況はかなり明白となった』


『ミハイルはアルセノの王子だったんですか……』


『3男だったから王になったわけじゃないけどな。でもルークは一国の王子である息子を天族と魔族に預けたことで、天界・魔界に対して敵意がないことを示した。それは天王や魔王が地族に干渉してはならない、という決まりができるきっかけになったことだ。その功績も奏してルークが提案した、3界が融合した日を紀元とするルーク歴が世界的に用いられている』


『なるほど……』


 非常に勉強になる。本当に歴史の授業を受けている気分だ。

 学校に通えばこういうことは教えてもらえたのだろうな。エルフも子供を学校に行かせた方がいい。触媒を作る授業では苦労しそうだけど。


『その後、ミハイルは3界の橋渡し的な存在のリーダーとして、父であるルークと共にミトスのいしずえを築いていった。そんなミハイルが転生者だと明かしたのは、ルークが死んで次代の王に変わった時、30代の中ごろだったと伝えられている』


『30代の中ごろ……意外と遅かったんですね』


『王が変わったことと関係があるのかも知れねぇし、他の思惑があったのかも知れねぇけど、3界以外の世界から転生してきた人物の存在は、世界を震撼しんかんさせた。しかしそれが今まで3界の橋渡しをしてきたミハイルであったこと、ミハイルがもたらす異世界の知識は3界のどこにとっても有益となったことで、まるで神のように崇められたと聞く。風呂が世界的に広まったのもこの頃だな。そうなってくると面白くないのはミトスで一番の強国であるアルセノの王、カール・リュミエールだ。ミハイルの兄であるカールはミハイルを異質なものとして排除しようとし、それから逃れるようにミハイルはアルディナに渡り、晩年を静かに過ごしたと言われている』


『それだけ世界に貢献してきた人なのに、そんな最期だったなんて物悲しいですね……』


 自分の兄から命を狙われ、逃げるように故郷を去ったなんてあまりにも悲しすぎる。


『……どうだかな。案外、ミハイル自身がそう望んでたのかも知れねぇし』


 同意が得られるかと思っていたが、ヨハンからは真逆の答えが返ってきた。

 そしてその言葉で、ヨハンもまたミハイルと同じような人生を歩んできたのだと思い返した。


 この世界の医術を確立したヨハンは色々な人間から利用され人間不信になり、今こうして隠れるように静かに診療所を開いている。

 同じような境遇のミハイルの気持ちが一番分かるのかもしれない。

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