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第262話 密談

 レクシーが作った夕食は、予想に反してお店で出てくるような豪勢なメニューだった。

 肉、パン、サラダにスープと非常にバランスが良く、盛り付けにも非の打ちどころがない。


「すごいね、レクシー、料理上手なんだね」


「まぁね~! 味もちゃーんと保証するよ♪」


 感想を素直に口にすると、レクシーは謙遜することなく嬉しそうに頷いた。


「セスの料理は酷かったからなー。それを思えばこいつの料理はなかなかのもんだ」


「食べられれば何でもいいと言ったのは貴方だろう」


 呆れたように呟いたヨハンの言葉に、すぐさまセスが反論した。

 料理はできない、というのは本人から聞いたことがあるが、一体どんな料理を作ったというのだろう。


「そうだな。あれは俺が悪かった。むやみやたらに"何でもいい"という言葉は使うもんじゃねぇ」


「どんな料理だったんですか?」


「最初は味が全くついてなくてな。肉は焼くだけ、野菜は切るだけ、って感じで。さすがに味付けしてくれって頼んだら、次の日はやたらと色々なスパイス使いまくってめちゃくちゃ激辛な料理を出しやがった。しかもこいつ、それを平気な顔して食べてたんだぜ。味覚障害あるんだろうな、きっと」


「……な、なるほど……」


「もういいだろう、昔の話は。それに俺は味覚障害じゃない。食べられれば何でもいいだけだ」


 不満そうに反論するセスの言葉はいまいち的を得ていない。

 しかしそうか、セスは味覚音痴だったのか……。今まで私が作る料理をおいしいと言ってくれていたのだが、それはお世辞だったのかな?


 拗ねたような顔で夕食を食べ始めたセスを横目に、私は静かに心の中で泣いた。






「よぉ、疲れてるとこ悪ぃんだけど、ちょっと話さないか」


 そうヨハンに声をかけられたのは夕食が終わってしばらく経った頃だった。


 夕食の時、私とセスは部屋で話し合ったことをヨハンに告げた。それを聞いてヨハンは分かった、とだけ答えてそれ以上は何も聞かずに、しばらく滞在していくといいと勧めてくれた。


 何でも、セスはエスタを訪れるたびにヨハンの元で2週間くらい過ごしているのが常らしく、ヨハンの手伝いをする代わりにタダで泊めてもらっているんだそうだ。

 今回、私は客だから自由に過ごすといいとヨハンには言われたが、さすがにそれは心苦しいのでレクシーの手伝いをしたいと申し出たところ、「まぁ、好きにしていい」と呆れ顔で許可してくれた。

 ちなみに、「やったぁー! 一緒に頑張ろうね☆」と喜んだレクシーはしっかりヨハンに鉄槌を落とされていた。


「あいつもずいぶん変わったもんだな」


 飲み物を用意してくれたヨハンが、私の向かいに腰かけながら口を開いた。

 ちなみにここは食堂である。ヨハンの診療所は一応診療時間は決まっているものの、夜中に緊急で来る患者さんもいるからと、なるべく診療室から離れないようにしているんだとか。


「セスですか?」


 それ以外にはいないと分かってはいるが、話を繋げるためにそう答えるとヨハンは「ああ」と短く返事をしてお茶を口にした。


『お前、あいつが何でここに来たかっていう話は知ってんのか?』


 しばらく沈黙が続いたが、やがてヨハンは日本語を使って私に問いかけた。

 セスには聞かせたくない話だからなのだろうが、それでは逆にセスの話をしていると知らしめているようなものだ。セスに聞かれたらまた拗ねてしまうのではないのかと若干不安になる。


『ユスカさんの話なら聞きました』


『そっか。じゃあ遠慮なく話せるな』


 そう言ってヨハンはまたお茶に口をつけた。


 今、セスは何をしているのだろう。おそらく部屋にいるのだろうが、ふらりと来てしまう可能性はないのだろうか。と思ったけれど口には出さなかった。

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