第261話 相談
他の部屋も同様なのだろうが、私に割り当てられた部屋は本当に病室だった。
白いシーツのベッド、小さなサイドテーブル、簡易的なロッカー、ベッド横の丸椅子。水の触媒が付けられた小さな洗面所。ただそれだけがある殺風景な個室だ。まぁ、寝るだけと考えるなら何も不自由はない。
夕飯までまだ時間があるから、ということで私とセスは順にお風呂に入り、その後話をしたいというセスが部屋を訪ねてきて今に至る。
「さっきは気分を害してしまったかな。さすがに所有物だなんて思ってないけど、俺が君を手放したくないのは事実だから図星を突かれたようで何も言い返せなかった」
セスは私と視線を合わせずにそう言って、ベッド横の椅子へと腰かけた。
「大丈夫だよ。それだけ僕を大切に思ってくれてるのは嬉しい。だから相談したいんだ。どうするのが一番いいのかを……」
手放したくない、という言葉に心臓が跳ねたが、それを悟られないようにセスの近くのベッドへと腰かける。そんな私をセスはどこか悲しそうな目で見て、すぐにまた逸らした。
「……どうするのが一番いいのか、という問いに答えるなら、レクシーの言うようにアルディナに行くのがいいと思う」
私とは視線を合わせないまま、セスは静かにそう言った。
アルディナで私を1人にするつもりはないとレクシーにも言っていたし、本意ではないのだろう。
「夢は魂が見せる記憶であり、最も神に近づく場所だと言われている。それはつまり、死に近い場所にいるという意味だ。誰かに干渉されているという状況がいいことではないのは確実だろう」
「死に近い場所?」
「人は死んだら魂が神の元へと還る。神はその魂を手に取り、次の転生先へと宿す。だから魂が神に近いということは、死にも近いということなんだ」
「なるほど……?」
夢=魂が神に近づく=死に近い。何だかこじつけのような気もするけど、この世界では本当にそうなのだろうか。
「でもアルディナだと俺は一族に縛られて君の側にいられない。だから……ミトスにいてくれないか。君のことは俺が守るから」
「……っ!」
今日のセスはずいぶんと積極的だ。さっきは何とか動揺を隠せたけど、こうも連続で不意打ちされると困る。
こんなことを考えている場合でないのは分かっているが、どうにも胸の高鳴りを抑えきれない。
「ぼっ……僕だって、1人でアルディナに行くつもりなんてないよ。セスの側にいたいし……」
「……ありがとう。じゃあ俺から提案があるんだけど」
おそらく見て分かるほどに顔が赤くなっていただろうが、セスはそんな私を茶化すこともなく柔らかい笑みを浮かべてそう口にした。
「俺はあえて夢の中の人物に会う必要はないと思うんだ。その人物に会うためには君の命を危険に晒さなければならないのだろう? そんなことはさせたくないし、逆を言えばそういう状況に陥らなければ干渉されることもないはずだ」
「なるほど……現状維持ってことだね」
「ああ。何か動きがあるまで様子を見てもいいんじゃないかと思う。それでもしミトスにいるのが危険だってなったなら、その時は転移石でアルディナに逃げればいい」
確かにあの少年がどういう立場の者か分からない以上、むやみに接触しない方がいいという意見は最もに思える。今まで、自分が元気な時にあの夢を見たことはない。セスの言う通り、理論上はこれから先そういう状況に陥らなければ干渉されないということだ。
「うん、じゃあそうしよう」
あの少年は誰なのか、自分の置かれている状況がどうなっているのか気にならない訳ではないが、無理に知ろうとして取り返しのつかないことになるくらいなら、現状維持の方がいい。
夢に干渉されるために重傷を負わなければならないというのも、好んでやりたいとは思えないし。
そう思ってセスの言葉に頷くと、セスはまた柔らかく笑って「ありがとう」と小さく呟いた。




