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第259話 推論

「夢、ねぇ……」


 地下洞窟からここに至るまでの出来事を全て話すと、ヨハンはそう呟いて考え込んだ。


 そのことを話すに当たって、レクシーにも私が転生者であることや女であること、セスと恋仲であることを話してある。

 ちなみにレクシーはそれを聞いて、「女の子かと思ってたら男の子で、でも女の子なんだぁ! じゃあ後でいいことしようね☆」とよく分からないことを口にしたためにヨハンに鉄槌を喰らっていた。


「その夢を見たのは今回が初めてか?」


「いいえ、迷路を彷徨う夢はこれで2回目です。似たような感じで深い森を彷徨う夢も見たことがあって……それは4~5回見たかな……」


「深い森……?」


 ヨハンの質問に答えた私にセスが怪訝けげんそうな表情を向けた。

 森の夢のことはセスにも話したことがなかったので、疑問に思うのは当然だろう。


「迷路の夢に関係あるかは分からないんだけど……」


「まぁ、でもお前が似てると感じてるなら無関係って訳でもなさそうだけどな。そういう夢を見た時の共通点はあるのか?」


「共通点……」


 ヨハンの質問に記憶を辿る。全てに共通する何かはあっただろうか。


「うーん……命にかかわるような怪我をした時……? でも必ずしもそうじゃなくて、初めて見たのはお酒を飲みすぎて倒れた時だし……。あとはカルナの病院に入院していた時とか……」


「カルナの病院? ヒューイの依頼の時の?」


 私の言葉に真っ先に反応したのはセスだった。


「うん……あの時は何度か森を彷徨う夢を見た」


「ファネルリーデの影響下にあった時か……」


「ファネルリーデってお前……」


 それを聞いていたヨハンを顔をしかめて私を見た。

 ファネルリーデという薬がずいぶんと危ないものだったということは後から聞いた。そんな薬を何故私が打たれたのかとヨハンとしては疑問なのだろう。


「あの時、シエルには刺激に対して何の反射も見せなかった時間が丸2日間もあった。それがファネルリーデの影響によるものなのか別の要因なのか特定できなかったが……その夢を見ていたからという可能性もあるな。アンジェリカの術が干渉された時も体を揺さぶったくらいでは起きなかったし……」


「つまりは単純に言えば弱ってる時ってことだろ。そういう時じゃないとその"誰か"はシエルの夢に干渉できないんじゃねぇのか? 今日はカムニ族が夢を誘発してくれたおかげで弱ってなくてもできたとか」


 独り言のように呟いたセスを横目にヨハンが言った。


「なるほど……」


 そうなのかもしれない。あの場所をずっと三途の川的な場所だと思っていたくらいだし。


「しかし……森を彷徨う夢、迷路を彷徨う夢、迷路を突破して白い空間に出る夢、そこにいた"誰か"。どうにも順を追ってるように思えてならねぇ」


 ケーキをフォークで切りながら、ヨハンも独り言のように呟いた。

 自分の話なので何となく手を付けづらいが、非常においしそうなチーズケーキだ。


「順?」


「迷路はそれ以上踏み込ませないための防御なんじゃないか、カムニ族はそう言ってたんだろ? だとしたら森を彷徨ってたのも同じなんじゃねぇの? 二重に張られてた防御を突破したから白い空間に出た。そんな風に考えられる」


「ということは、森も迷路も白い空間にいる少年を守るための防御だったってことですよね。じゃあ何故僕はそこに呼ばれたんだろう……。防御を突破させたい別の誰かがいるってことでしょうか?」


「さぁな。そこまでは分かんねぇ。ただ防御を突破しちまった以上、俺は一度そいつと話してみた方がいいんじゃねぇかと思うんだがな」


「えぇー!? 危なくない? あたしはやめておいた方がいいと思うけどな……」


 今まで黙々とケーキを食べていたレクシーが口を挟んだ。一応話は真面目に聞いていたようだ。


「そいつに会うだけで危険だっつーなら、もう遅いだろ。なら話をしてもう少し状況を理解しておいた方がいいんじゃねぇのか?」


「そうかなぁ? 夢をどうこうするのって魔族の専門分野でしょ? だったらアルディナに逃げちゃえばいいんじゃないの? 干渉してきてるのが誰であっても、さすがにアルディナにいれば大丈夫でしょ」


「…………」


 レクシーの言葉に全員が沈黙した。

 今までの態度からは考えられないほどまともな意見だ。おそらくレクシー以外の全員がそう思っていることだろう。

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