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第258話 レクシー

「初めましてっ! レクシーだよ! よろしくねー!」


 結局、ヨハンによってレクシーは無理やり引き離され、強制的にヨハンの隣へと座らされた。

 つまりは私の目の前に座ることになったレクシーが、先ほどの抗争を反省する素振りもなく明るく自己紹介を始める。


「初めまして……シエルです……」


 目の前には切り分けられたチーズケーキが置かれている。これは「美味しそうだったからつい買ってきちゃった☆」とレクシーがヨハンのお金で買ってきたものらしい。当然、「余計なモン買ってんじゃねぇ!!」とヨハンに怒られていたが、レクシーは「お客さんいるならちょうどよかったじゃん!」と開き直ってルンルン気分で切り分けていた。


 何だろうこれ。何か想像していたヨハンの出会いとはあまりにも違いすぎた。


「レクシーは、俺がここで診た最後の患者なんだ」


 自己紹介の後、意外にも最初に口を開いたのはセスだった。


「最後の患者……?」


「そう。ヨハンに命を助けられた対価として治癒術を提供した、最後の患者」


 医術では手に負えないレベルの怪我人を助命するための治癒術、セスはそれを対価として支払うためにヨハンの元にいた。

 まさかこのレクシーが、その最後の患者だったとは。


「あの時はちょーっとミスっちゃってねぇ。セスのお陰で何とか命は助かったけど、今度はあたしがここで働かされる羽目に……トホホー……」


「トホホー……じゃねーよ! 金がないならその分きっちり働け!」


「ねぇ、シエル、酷いと思わない!? あたしの命を助けてくれたのはヨハンじゃなくてセスなのにヨハンに奉仕しなきゃならないなんて!!」


「黙れ! 俺の手札を使ってお前を助けたんだから、俺に対価を支払うのは当然だろうが!!」


「…………」


 私はコントか何かを見せられているのだろうか。

 レクシーにとって割と深刻な状況なのではなかろうかと思うのだが、2人のやり取りからはまったくそれを感じられない。そればかりか、何だか楽しそうに見えてしまうほどだ。


「それにしても15年はないんじゃない!? あたしは明るい未来が待ってるピチピチの女の子だっていうのにー!!」


「なぁーにがピチピチの女の子だ! 命ってのはなぁ、重いんだよ! 雑用しかできねぇくせに文句言うな!!」


 なるほど、セスがここで20年働かされたように、レクシーは15年という期間を科せられたようだ。

 しかしレクシーはどう見ても私と同じか、それ以下の年齢くらいだ。それなのに15年というのは些か長すぎるのではないだろうか。


「そもそも明るい未来が待っている人間はこんな所に出入りしてないだろ……」


「セスてめぇ、こんな所ってのはどういうことだ! さり気なく俺をけなしてんじゃねぇよ!!」


「ふえーん、2人ともひーどーいー」


「…………」


 デッドライン討伐の時でもこんなに騒がしくなかった気がする。

 大きい子供の集まりみたいで何だか笑えてくるな。いや、レクシーは見た目的にも私とそう変わらなそうではあるけれど。


「あーそういや、こいつのせいで話が逸れちまったが、まだ話の続きがあるみたいなこと言ってたよな。こいつ外に出したほうがいいか?」


「えー!? なになに、何の話? あたしだけのけ者にしようだなんてひどいよー」


「うるせーな、お前少し黙ってろよ」


「いや、むしろレクシーにも聞いてほしい。少しでも意見が欲しいところなんだ」


 先ほどまでのノリのまま話していた2人が、少しでも意見が欲しいというセスの言葉で真剣な顔つきに変わった。

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