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第257話 対面・3

「今までに会った転生者から聞いた年を照らし合わせていくと、向こうの1年がこっちの100年に相当することが分かった。だからミハイル・リュミエールがこっちの世界に来たのは『1999年』だと思われる」


 私の動揺を気にも留めず、ヨハンが持論を展開していく。

 しかしながらその中で出てきた名前に覚えはなかった。


「ミハイル・リュミエール?」


「知らねぇか? この世界で最初に確認された転生者だ」


「あ、お風呂を広めた人……ですか」


「ああ」


 確かアルディナ語、ミトス語、ルブラ語のすべてを習得した人だと以前セスが教えてくれた。名前までは知らなかったが、ミハイル・リュミエールというらしい。


「『1999年』っつったら向こうの世界で世界滅亡だ何だのって騒がれた年だ。ミハイルが最初の1人目だと仮定したら、何かしらの因果関係があるんじゃねぇかって思ってるんだけどな」


「すみません、その時僕まだ1歳で……出来事としては記憶にないんですが、確かにその話を聞く限り無関係とも言えないですよね」


「……そうか。ずいぶんと若かったんだな。死んだ時の年齢はまちまちだったが、俺自身も他の転生者もすべてが事故死だった。お前もそうなんだろ?」


 ヨハンが一瞬哀れむように私を見てから視線を外した。


「そうですね。その通りです。全員が事故死だなんて……偶然ではないですよね」


「だろうな。それが分かったところで何が変わるわけでもねぇんだけどな……」


 どこか諦めたような言い方だった。

 それでも不明瞭なままよりいいと思うのだが。いくつかの事実が判明したのは、ヨハンが転生者の情報を元に統計を取っていたからに他ならないわけだし。


「でも僕は救われました。同じような状況でこの世界に来たのが自分だけじゃなかったんだって。貴方とお会いできて、よかった」


「……そうか」


 私の言葉に視線を外したまま、ヨハンは柔らかい笑みを見せた。


「ヨハン、話はそれだけじゃなくて」


「たっだいまー!!」


 今までずっと黙って話を聞いていたセスが口を開いたのと、場違いなほど明るく元気な声が聞こえたのはほぼ同時だった。


「あー……うるせぇのが帰ってきやがった……」


 あからさまに顔をしかめてヨハンが呟いた。


「あっれー!? この匂い……」


 と言いながらカーテンを勢いよく開けて、少女が食堂へと入ってきた。


「…………」


 犬だ。

 正確には犬の獣人だ。

 年の頃は私と同じくらいだろうか、肩くらいまで伸ばした茶色の髪、茶色に先が白くなった犬耳、モフモフした同色の尻尾。ベルナデットを犬にしましたみたいな感じの獣人だ。白いパーカーに赤いチェックのミニスカートと、まるで休みの日の女子高生みたいな恰好をしている。


「セスじゃないかぁ! ひっさしぶりー!!」


 一瞬の間の後、高らかに叫びながらその少女がセスに抱き付いた。


「……っ離れろ、レクシー……!」


 すぐにセスがレクシ―と呼ばれた少女を無理やり引き離した。

 なるほど、この少女が先ほど話に出てきた人物か。


「なんだよぉ! 相変わらず冷たいなぁ……って君はだぁれ? かーわいいっ!!」


「ぅぇえっ!?」


 レクシ―が頬を膨らませて拗ねたかと思えば、その瞬間今度は私に抱き付いてきた。肩越しに見えるモフモフの尻尾が、引きちぎれんばかりに激しく振られている。イチゴのような甘い香りがして、思わず心臓が高鳴った。


「黙れ。離れろ」


 犬の首根っこを掴むようにして、セスがレクシーを引き離す。

 その冷たい声と表情に、私の背筋が凍った。


「いたたたたっ暴力はんたーい!!」


 そんな雰囲気を微塵も感じ取っていないらしいレクシーが、ジタバタと暴れる。


「てめぇ、帰って来るなりうるせーんだよ!! 少しは大人しくしてろ!!」


「キャンっ!」


 ヨハンが投げた布巾が顔にペシンと当たり、レクシーは犬みたいな声を上げて私の背後へとサッと身を隠した。


「えっ……え!?」


 私の肩を掴み背後で身を丸くするレクシーを前に、私はどうしていいか分からず助けを求めるようにセスとヨハンを見た。が、背後のレクシーに対して向けている忌々しそうな目が私にも突き刺さり、今すぐこの場を離れたい気分になった。


 何この状況。

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