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第256話 対面・2

『はい、分かります。貴方も日本の方なのですね』


「……なるほど」


 何がなるほどなのか分からないが、ヨハンは私の日本語を聞いてミトス語でそう呟いた。


『……知ってるかもしれねぇが、俺はこの世界で1000年以上生きてきた。今までに何人か転生者に会ったこともある。だが不思議なことに、お前も含めてそのすべてが日本人だった』


 そして今度は日本語で続ける。


『すべて日本人……?』


 だからなるほど、という言葉が出たのか。

 一体何人と会ってきたのかは分からないが、すべてが日本人だったというのは決して偶然ではないだろう。

 それがどういう意味を持つのかまでは分からないが……。


『っていうか、まず最初に聞くけどお前そいつとどういう関係なの? 俺が知る限りでは他人と慣れ合うようなやつじゃないんだけど』


 セスの話と気づかれないようにだろう、あえて名前を出さずにヨハンが言った。視線もそちらに一切向けないという徹底ぶりだ。

 私がセスからアルディナ語を教わる対価として日本語を教えるという約束ではあったが、実際私が教わるばかりで教えていなかったのが幸いだ。


『えっと……恋人……?』


「はあああぁぁぁ!?」


 私の返答を聞いて、大声で叫びながらヨハンが勢いよく立ち上がった。

 その拍子にテーブルが大きく揺れ、まだ手を付けていなかった私とヨハンのジシ茶が零れた。


『ち、違う! 違うんです!! 私、前の世界では女だったんで!! 決してBLってわけじゃなくてっ!!』


『女!? んだよ、びっくりさせんな!! ついにやつもそっちの世界に行っちまったんかと思ったじゃねーか!!』


『違います!! あくまでも私たちはノーマルな関係性で!!』


『…………』


 "ついに"の意味も"やつも"の意味も分からないが、とりあえず必死に弁明する。が、ヨハンは神妙な面持ちで私を見つめていて、何を考えているのかいまいち読めない。これ以上説明のしようもないので、納得してほしいところなのだが。


『……まぁ、そういうことならとりあえず分かった』


 長い沈黙の末に、ヨハンはそう呟いて静かに腰を下ろした。


 ひとまず誤解は解けたようで安心したが、それにしてもこの人、普通の若者感が半端ないな。もっと長老感があるのかと思っていたが、1000年以上生きている貫禄は皆無だ。私としては話しやすいのでいいのだけど、想像していた人物像からはずいぶんとかけ離れている。


「あのさ、ずいぶん盛り上がってるみたいだけど、それ俺に聞かせたくない話なの? のけ者にされるとさすがに俺も傷つくんだけど」


 あからさまに不機嫌そうにセスが口を挟んだ。

 まったく分からない言語で話をされては、そりゃつまらないことだろう。


「うるせーな! てめぇの話してんだよ!! 『リア充』は黙ってろ!!」


 零れてしまったお茶を律儀にも布巾で拭きながら、ヨハンが苛立ちを露わにして言う。


「リアジュウ……?」


「待って、待って、ヨハンさん何で『リア充』って言葉知ってるんですか!? 貴方は一体いつの時代からこっちの世界に!?」


 ミトス語に混ざった"リア充"という言葉に、危うく持ち上げたカップを取り落としそうになった。


 セスはまったく意味が分からないという感じで頭に「?」を浮かべているが、そこをフォローしている余裕はない。


「『2009年』だ。お前がこっちに来たのは『2019年』……そうだろ?」


 冷静さを取り戻したのか、スッと声のトーンを落としてヨハンが言う。日本語とミトス語が織り交ぜられているのは、セスにも話の内容が分かるように配慮したからだろう。


「……何で……」


 しかしなぜそれが断定できたのだろうか。自分が元の世界で死んだ年をずばり言い当てられ、ドクンと心臓が脈打つ音が聞こえた。

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