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第253話 見捨てる者

 魔王や神にも匹敵する誰か。そんな誰かからの干渉を受けている。


 全く意味が分からないし覚えもない。一体何がどうなっているというのだ。


「それにシエル、貴方普通のエルフとは違うのよね。ずいぶんと過剰な神力を持っているのだとクロエが言っていたけれど」


「……それは、」


「でもね、貴方が何者なのかはもう聞かないわ。貴方の背後には得体の知れない何かがいる。私たちはこれ以上、貴方に関わりたくない」


「……っ」


 鈍器か何かで殴られたような衝撃を受けた。


 アンジェリカに面と向かって拒絶されたことがショックなのか、自分が何か分からないものに巻き込まれていることがショックなのか、よく分からない。


 よく分からないが、泣きたくなった。


 よく分からないこの世界で、谷底に突き落とされたような気さえする。


『貴方も彼から離れた方が良いのでは?』


 追い打ちをかけるようにクロエがアルディナ語でそう言った。


 クロエは、アルディナ語で言えば私には分からないと思ったのだろう。

 しかしロッソからアドルドまでの道中、緊急時を除きセスにはオールアルディナ語で話してもらい、私もできる限りアルディナ語で返していた。3週間という長い期間ずっとそんなことをしていたので、日常会話くらいなら問題なくできるようになったのだ。

 それ故に、今の言葉が分かってしまった。


 それが、セスに向けられた言葉であることも。


「…………」


 アンジェリカたちがそう思うのは当然だ。彼女たちは仲間でも何でもない。半ば脅しとも言える形で協力を取り付けた関係性に過ぎないのだから。

 そして実際、彼女たちの判断は正しい。よく分からないからこそ、関わらない方がいい。だからクロエの言葉も正論だ。セスだってそんな訳の分からない事柄には関わらない方がいいに決まっている。


 セスは何と答えるのだろう。


 怖くてセスの顔を見ることができない。


「黙れ」


 しばらくの沈黙の後に、セスはミトス語で一言そう返した。

 背筋が凍るような冷たい声だった。


「…………」


 およそ普段のセスからは考えられない言葉に目を丸くしてそちらを見ると、セスは先ほどの声色と同じように酷く冷たい表情でクロエを見つめていた。


 アルディナ語の言葉が分かったのか分からなかったのか知らないが、どちらにせよクロエに向けられた凍りつくような言葉と態度が気に食わなかったのだろう、アンジェリカが酷く怖い表情でセスを睨みつけている。しかし当のクロエは全く表情を変えず、ただ静かにセスを見つめ返していた。


 どうしよう。


 私のためにセスが怒ってくれたのは嬉しいが、とても喜べる状況ではない。そうできるほど、感情も追いついていない。


「君たちには関係のないことなのだろう。ならば口出しをするな。行こう、シエル」


 そう言いながら立ち上がって、セスは私の方を見た。


「う、うん……」


 2人を振り返ることもせず部屋を出て行くセスに、私もただ続くしかなかった。






「このままヨハンの所に行こう。あの人は長く生きてるから何か分かるかもしれない」


「…………」


 建物を出てもなお足を止めないセスに反し、私の足は動かなかった。


「……シエル?」


 ついてこなかったのが不思議だったのだろう、数歩先を行くセスが止まって振り返った。


「……さっき、セスがクロエの言葉に怒ってくれたのは正直嬉しかった。でも、セスだって……本当は僕に関わらない方がいいはずだ。あの夢を見たのは今日が初めてじゃない。もし、もしそれが悪いものであったら、いつかセスを巻き込んでしまう」


 こんな言葉、セスは望んでいない。そんなことは分かっている。分かっているのに感情が整理できずに止められなかった。


 逆の立場であったルブラの時、私はセスに何て言った? いい加減にしろと、怒って胸ぐらを掴んだのは誰だ? セスは怒るだろうか。クロエにあんな風に怒ってくれたのに、こんなことを言う私に失望するだろうか。


 セスの表情からは感情を読み取ることができない。感情の色を見せずただ静かに、私の言葉を聞いていた。


「シエル」


「ごめん、違う! こんなことを言いたいんじゃない……! ごめん……僕、僕は……っ!」


 感情を映さないまま口を開いたセスから逃げるようにまくし立てて、私は走り出した。



 続きを聞くのが怖かった。

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