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第251話 干渉・1

「いっ……!」


 痛い。思わず痛んだ左腕に目をやった瞬間、視界が切り替わった。


 まず目に入ったのは私を覗き込むセスの姿。

 そして次に目に入ったのが、私の左腕に突き刺さる短剣。


 それを握っているのはセスだった。


「……え?」


 状況が理解できない。

 セスが横たわる私の側にしゃがみ込み、私の左腕に短剣を刺している。


 ここは地下洞窟だ。


「ごめん」


 そう言ってセスが短剣を引き抜いた瞬間、再び激痛が走った。


「うっ……!」


 痛みで、思わず海老のように体が丸まる。

 傷口を強く押さえた私の手をセスが無理やり引き離して、治癒術をかけ始めた。


「なに……が……」


 一体何だというのか。何故私はセスに刺されたんだ。


「貴方、今何の夢を見ていたの?」


 私の問いかけには誰にも答えず、セスの背後に立つアンジェリカが怖い顔で私を見下ろして言った。


「なん、の……?」


 治癒術のお陰で痛みは大分マシになってきたが、頭がうまく働かない。


「私が導いた夢ではない夢を見ていたでしょう。誰かに干渉されたわ」


「干……渉……?」


 意味が分からない。

 確かに自分が見たいと思った夢は見られなかったが、誰かに干渉されたというのはどういうことなのか。


「ごめん……場所を、変えたい。はっ……息、が……」


 私とアンジェリカの会話を遮るようにセスが荒い息を吐いて言った。

 それでここが魔力濃度の高い場所であることを思い出した。痛みのせいで自分の呼吸が乱れていることに違和感を覚えなかったが、痛みが引いた今でも息が苦しい。

 そんな私よりもセスの方がよっぽど苦しいはずだ。そこでさらに治癒術なんて使ったらその負担はとんでもないだろう。


 急に思考がはっきりとしてきて私は体を起こした。


「ごめん、セス、すぐここから離れよう」


「これで地上まで送ってちょうだい。もう訓練どころじゃないわ」


 肩を貸そうとした私に、アンジェリカが小さな石を差し出した。

 転移の触媒だ。


「訓練どころじゃないって……」


 そんなに大変な事態に陥っているというのか。


 私が見ていた夢が何かしらの問題になっているということだけは分かるが、その内容が理解できずにもどかしい。

 だがしかし、静かに私を見下ろすアンジェリカに今ここでそれを問うても答えてはもらえないだろうし、セスの状況的にもそれどころではないのは理解している。


 ここはアンジェリカの言葉に従った方が賢明だ。そう思って私は受け取った転移の触媒を握りしめて、転移術の呪文を詠唱した。






 転移した先は見たことのない部屋だった。それもそのはず、恐らくここはクロエがエスタで取った宿の一室だろう。

 さすがにこんなに早く帰ってくるとは思っていなかっただろうクロエが、驚愕の表情でこちらを見つめている。読み物でもしていたのか壁際にある机の上には本が置かれ、座っていたと思わしき椅子は驚き立ち上がった衝撃からか大きく後ろにずれていた。


 少し、疲れた。


 クルヴァン討伐後にアドルドまで転移したほどではないが、訳の分からない状況に気が滅入って精神的にも疲れている。


「シエル、貴方一体誰の夢を見させられていたの?」


 床に座り込む私とセスを見下ろしてアンジェリカが開口一番そう言った。


「……誰の……?」


 質問の意味が分からない。


「一体何があったのですか……?」


 クロエがアンジェリカの側に駆け寄る。


「遠隔から夢に干渉されたわ。そんなこと、夢魔であるカムニ族にだってできることではない。貴方は一体誰の手の中にいるの?」


「…………」


 先ほどからアンジェリカの言葉の意味が分からない。


 誰かの手の中にいるというならば、それは最後に見た黒い髪の少年のことなのだろうか。

 だとしても、記憶にある限りではその少年と面識がない。あれは誰なのかと私が聞きたいくらいだ。


「ごめん、ちょっと僕自身も状況を理解していない……。だから、順を追って最初から話をしたいんだ……」


 そう言ってヨロヨロと立ち上がった私を、アンジェリカとクロエが神妙な面持ちで見つめていた。

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