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第249話 ネラ苔

 地下洞窟へ続く暗い階段の壁には等間隔で光の触媒が付けられており、辺りをほのかに照らしている。

 光の触媒は一度灯すと時間経過で消えるので、消えてしまったら通った人が点けているのだろう。地下洞窟も当然ながら暗いだろうから、同じような感じで触媒が付けられているのだろうか。


 と思って降り立った地下洞窟は、想像とは全く違うものだった。


「なに、これ……」


 洞窟内の天井、壁、床の至る所が緑色に淡く光っている。所々不自然に刈り取られたような場所はあるが、まるでイルミネーションで照らし出された光の道のようだ。


「ネラ苔よ。神力や魔力に反応して光るの。地下洞窟内の光源として重要な苔だから刈り取ることは禁止されているわ」


「へぇ……じゃあ所々ない部分は?」


「戦闘の痕でしょうね。まぁ、ネラ苔の増殖スピードは尋常じゃないから、その内すぐ修復されるわよ」


「なるほど……」


 アンジェリカと会話しながらも、私は幻想的な光景に心を奪われていた。

 ゲームでよくあるダンジョンのような薄暗く陰湿な洞窟を想像していたので、いい意味で期待を裏切られたと言っていい。


「夢中になっているところ悪いんだけど、地図もらっていいかな」


「あ、ごめん」


 困ったように笑うセスの言葉で自分が地図を持ったままだったことに気付き、慌ててそれを差し出した。

 壁に寄って地図を広げるセスの傍らから、私も同様に地図を覗き込む。

 目的地はそう遠くないとは言え、そこに至るまでの分岐点は多い。洞窟内の景色は基本同じだろうから、今自分がどこにいるか把握するだけでも大変そうだ。正直地図には強くないので、もし1人だったら確実に洞窟内で迷って出られない気がする。


「さて、行こうか。アンジェリカ、戦わないのなら地図を持っていてくれ」


 この短時間である程度のルートを把握したのだろうか、セスは地図を見始めてそう時間も経たないうちに丸めてアンジェリカに差し出した。


「シエル、いつモンスターが出てきてもいいように身構えといて」


 そしてアンジェリカが地図を受け取ってから、剣を抜いてそう言った。


「分かった」


 とは言え、セスのように準備するものは何もない。せめて洞窟に入る前にローブを買っておけばよかったか。






 最初のモンスターに遭遇したのは歩き始めて間もない頃だった。

 先に下りたはずの人たちはいつの間にかいない。この洞窟は分岐点が多いので、きっと別の道を行ったのだろう。


「うっ……うわぁ……っ!」


 シュンッという音と共に、いきなり目の前に毛もくじゃらの巨大蜘蛛が現れた。


 なるほど、本当にアニメなどでよく見る"シュンッ"だ。あながちあれは間違った表現ではなかったらしい。しかしそんなことはどうでもいい。とにかく目の前に佇む蜘蛛が気持ち悪い。タランチュラが超巨大化したみたいな蜘蛛だ。

 上ずった声が合図になってしまっただろうか、蜘蛛がセスを目掛けて凄まじいスピードで走り出す。


「…………」


 走りながら飛ばしてきた糸を、セスが造作もなく横に飛んで避けた。

 ちょうどセスの後ろにいた私と蜘蛛の間に何も遮るものがなくなり、蜘蛛の標的が私へと変わる。


「ひぃっ……!」


 見れば見るほど気持ち悪すぎて、私は咄嗟に両手を突き出し火炎放射を放った。

 あらん限りの力を込めてしまった火炎放射は、ゴオオオオォォォ! と音を立ててセスの近くを通過し、一瞬で蜘蛛を包み込む。おそらく、というか確実に近くにいたセスは熱かっただろう。炎から逃げるように腕で顔を覆いながら、さらに後方へと飛んだ。


「ちょっと貴方……」


 消し炭になった蜘蛛の残骸を見てアンジェリカが呆れたように呟いた。

 オーバーキルもいいとこだ。きっとそう言いたいのだろう。


「ずいぶんと蜘蛛に恨みがあるようだ……。俺まで消し炭になるかと思った」


 苦い笑みを浮かべてセスも言う。

 怒ってはいないようだが、申し訳ないことをしてしまった。


「ご、ごめん……あの蜘蛛が気持ち悪すぎて……」


「カーダの時は平気そうだったのに」


「あれは毛がない蜘蛛だったから……」


 と情けないことを言っている私を、アンジェリカが引きつった顔で見つめている。


 "ドン引き"


 顔にそう書いてある気がした。

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