第246話 地図と入場券・1
「まずはカデムを預けて地下洞窟の地図と入場券を手に入れましょう」
クロエのことには何も触れずに、アンジェリカはリッキーから降りてそう言った。
この2人はきっと言葉がなくとも通じ合っている部分が多いのだろうな。羨ましい限りだ。
それにしても地下洞窟に入るにあたって入場料を取られるとは聞いていたが、入場券を買うとは。まるでテーマ―パークか何かのようだな。
「地下洞窟の地図と入場券ってどこに売っているの?」
「両方とも学校に行けば買える。神魔術学校は国の管轄だし、授業で地下洞窟のマッピングをするらしいからね。生徒が描いた地図を冒険者向けに販売しているんだ」
「へぇ……学校に」
私の質問にセスが答えてくれた。
なるほど、神魔術学校には地下洞窟でマッピングをする授業があるのか。討伐訓練を兼ねてということなのかな。何だか楽しそうだ。
リッキーとライムを厩舎に預けてから私たちは神魔術学校へと向かった。
どの建物も同じような造りで同じような色合いをしているので、進んでいるはずなのに同じ場所を歩いているような気がしてならない。しかしセスもアンジェリカも迷うことなく進んでいくので、道は合っているのだろう。
しばらく歩き、たどり着いたのは丘の上から見た大きい建物の前だった。やはりこれが神魔術学校だったようだ。高い壁に囲まれ、門は固く閉ざされている。
「これ中に入れるの?」
中に入って行く生徒らしき人はちらほら見るのだが、どの人もテーマパークの入場ゲートよろしく、門扉の側にいる係員に何かを見せて扉を開けてもらっている。とてもじゃないが私たちがいきなり行って入れてもらえる雰囲気には見えない。
「さすがに関係者じゃないと学校の中には入れないが、入場券や地図を売っている場所は門の外側にある。あそこに建物が見えるだろう」
私の質問にそう答えながらセスは門から少し離れた1つの建物を指さした。
壁沿いにある2階建ての四角い建物で、そう広くはなさそうだが、ちらほらと冒険者風の人が出入りしている。
セスに続いて入ったその建物の中は、壁や床が黒いレンガで作られているために薄暗く、香を焚いたような甘い匂いが漂っていた。黒いローブを着た老婆の魔術師が壷に入った謎の液体をコポコポさせていてもおかしくないくらいの陰湿な雰囲気を醸し出している。
しかしながら入口近くのカウンターでは、どこにでもいそうなごく普通のおじさんがごく普通の服装で入場券を売っていて、まったくもって雰囲気に似合わず若干拍子抜けだ。
「地図は奥だ」
セスは短くそう言うと、カウンターの脇を通り抜けて奥の方へと歩いて行った。
そちらにももう1つカウンターがあり、これまたどこにでもいそうなごく普通のおじさんがカウンターの向こう側に座っていた。
「エスタ周辺の地図がほしいのだが」
「はいよ、好きなのを見ていくといい」
セスの言葉にカウンターのおじさんはにこやかに笑いながら言って、丸められた地図が数多く入った箱を私たちの前に置いた。
セスは無言でその中から1本を引き抜き、紐を解いて広げる。それを横から覗いてみると、細部まで丁寧に描き込まれた迷路のような地図だった。セスはそれをそのままカウンターの上に置いて、また違う地図を引き抜いて広げた。描いてある範囲や形そのものはそう大きく変わらないが、先ほどのものより幾分雑な印象を受ける地図だ。
「最初のものの方がよさそうね」
「ああ」
同じく横から地図を覗いていたアンジェリカの言葉にセスは頷いた。
なるほど、生徒が描いたものだから描いた人によって出来が違うというわけか。
「値段も変わるの?」
「値段は変わらない。だから下手なやつが描いた地図はずっと売れ残るのさ」
「そうなんですね」
セスに聞いたつもりだったが、カウンターのおじさんが答えてくれた。
それなら綺麗に描かれているものの方がいいのは当然だ。
「ではこれをもらおう」
セスは雑に描かれた方の地図を丸めて箱に収め、金貨1枚をカウンターに置いた。それが地図の値段というわけか。チラッと見ただけだったけど、描かれている範囲や細かさを考えれば安いような気がする。
「どうも」
カウンターのおじさんは置かれた金貨を袋にしまって、またにこやかに笑った。




