第245話 エスタ
「では、準備はよろしいでしょうか?」
朝食を済ませ、広い場所だからという理由で決められた、東側のワープポイント前で私たちは落ち合った。
ここからすぐにエスタに移動するというので、リッキーやライムもちゃんと連れてきている。
「全員一気に飛ぶの?」
「ええ。ルミアス族は転移の適性を持っていますから、そうでない者より消費は著しく低いのですよ。この人数をエスタまで転移させるくらいなら問題ありません」
私の質問にクロエはにこやかに笑ってそう答えた。
そんなクロエは白のフリフリドレスに、ピンクの刺繍をあしらった可愛らしい装いをしている。対するアンジェリカは黒いシックなドレスに真紅の刺繍をあしらった装いで、またまた対になっているようだ。実際それを意識して衣装を決めているのだろうし、よく似合ってもいるのだが、非常に目立っている。先ほどから道行く人のほとんどがこちらをチラチラと振り返って行く。
「そっか……じゃあ、早速お願い」
そんな視線に耐えかねて、私はクロエにそう告げた。
その瞬間、クロエが何か呪文のようなものを唱えた。おそらくそれはアルディナ語だったんだろうけど、私には何と言っていたのか聞き取れなかった。
「……っ!」
フェリシアによってルブラに落とされた時と同じような陣が足元に広がる。
あの時を思い出して思わず警戒したが、陣から発せられる光に飲み込まれ、一瞬で視界が暗転した。
転移した先は丘のような場所だった。
ロッソやアドルド周辺は緑も少なく岩肌の土地が多かったが、ここはまさしく草原と言っていい。地を踏む足に草の柔らかい感触が伝わってくる。
眼前に見下ろせる街道には人々が行きかい、それが続く先にはシスタスと同じくらいの大きさと思わしき街が広がっていた。あれがエスタなのだろう。
さらにその先には海も見える。この世界に来てこんなに間近に海を見たのは初めてかもしれない。
ここから見下ろせるエスタの街並みは、どの建物も薄い黒色をしたレンガの壁に、橙色の屋根という感じで統一されていた。一際大きな建物は神魔術学校だろうか。一見城を思わせるそれは、まるで映画にでも出てきそうな複雑な構造をした建物だ。
奥には港も見える。大きな帆船が幾艘も船着き場に停まっており、出発を待っているようだ。あそこからアルセノ行きの船が出ているのだろうか。
「街の外か」
一言静かにそう呟いたセスの声で、思考が中断する。
「基本的にどの街も外にレコードを作っています。街中にいきなり現れると周りの人間の目を引いてしまいますから」
「なるほど」
クロエの言葉にセスは納得したように頷いた。
確かに道を歩いていて、いきなり目の前に人が現れたら誰だってびっくりする。
「早速行きましょう」
そう言ってアンジェリカは動きづらいであろう恰好を物ともせずに丘を下り始めた。
転移で出た場所からエスタまでは歩いて1時間もかからなかったように思う。
さすがに女性2人を差し置いて自分たちがリッキーとライムに乗るわけにはいかないので、彼女たちを乗せ、私とセスは歩いてエスタまでの道のりを辿った。
エスタに入るとアドルドとは違い、術師風の格好をしている人が多く目についた。
しかも、同じようなローブを纏った人が多い。一様に皆若いので、もしかしなくても神魔術学校の生徒なのだろう。
「ここから私は別行動させていただきますね。地下洞窟にはご一緒できませんから」
ライムから降りるとセスに手綱を渡しながらクロエが言った。
「アンジェリカと後で落ち合う場所とか決めなくていいの?」
「問題ありません。アンジェリカは私が設置した帰還点に戻るための転移石を持っていますから」
ずいぶんあっさり別れるんだなと思って聞いてみたら、そんな返事が返ってきた。
あの時アドルドに帰ってきた転移石はアドルドに戻るためではなく、クロエが設置した帰還点に戻るためのものだったというわけか。
「では、これで。また後ほどお会いしましょう」
そう言ってクロエは優雅に微笑むと、雑踏の中に消えて行った。




