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第244話 夢魔

「さっきの話で、アンジェリカは夢を見させて神力を吸うって言っていたと思うけど、寝ている間に吸われるの?」


「あぁ……そうだね。その辺りは君には不明瞭だったか」


 私の質問にそう言って、セスは考え込むかのように視線を外した。


「カムニ族は夢魔とも呼ばれていてね。いい夢を見させる代わりに神力や魔力を吸う一族なんだ。寝ている間のことだから吸われること自体に苦痛はないはずだよ」


「なるほど……」


 悪夢ではないようだ。よかった。それに吸われている間に何も感じないなんて最高だ。さすがに目が覚めたら苦しいのだろうけど、苦痛は少ないに越したことはない。


「じゃあ地下洞窟の魔力濃度の高いところへ行って、そこで神力を吸ってもらうって感じ?」


「そうだね。その間君たちは無防備になるけど、俺が守るから心配しないで」


「そっか、ありがとう」


 モンスターがうごめく洞窟で寝るってことか。しかも目が覚めたら神力がほとんどない状態なんて、普通に考えれば死にに行くようなものだ。ずいぶんとセスも強行な手段を取る。でもまぁ、そうでもしない限り私が神力を感じるための訓練はできないのだろう。必要なことだ。


「神力が満タンの状態でセスの神気を感じるようになれるまで洞窟内で訓練するってことだよね? どれくらいかかるのかな……」


 まさかその場ですぐできるようにはならないだろうし、何日かは洞窟に籠ることになるのだろう。

 苦しい思いはなるべくしたくないし、早く終わらせたいところではあるが……。


「どれくらいかかるのかはやってみないと分からないけど……魔気は感じられるんだよね?」


「多分……? ヘルムートさんが僕の腕を切り落とす時に剣にまとった気のようなものは感じられた」


 セスの質問に首を捻らざるを得ない。

 見えない煙のようなものは感じたけれど、あれが魔気だったと証明してくれる人がいない以上、はっきりできると言えないところが辛い。


「じゃあそう時間はかからずに習得できるんじゃないかな。一度自分と他人の神力の違いが分かってしまえば後は早いだろうから」


「なるほど……?」


 そういうものなのか。まぁ、何事もやってみなければ分からないのだし、やるしかないのだからやってみよう。


「でもヨハンさんに会えるのはしばらく先になりそうだなぁ……」


「……ヨハンか」


 私の呟きにただそれだけを返して、セスはそれきり口を閉ざした。

 目を伏せて静かにバルロ茶を口にする様子は、美しくもありどこか悲しげに見える。


「…………?」


 今ヨハンの名を出すのは何かいけなかったのだろうか。でも元々エスタにはそれを目的として行く予定だったわけだし、ここでセスが黙る理由がよく分からない。


「……あの、僕何か変なこと言った?」


「いや、ごめん。ただ君に会ったヨハンがどんな反応をするんだろうと思ってね。彼も、同郷の者に会いたいと思っているだろうから」


 私の言葉にセスは悲しそうな笑みを浮かべてそう言った。

 この世界の人間に散々利用されたせいで隠れるように生きているヨハンを憐れんでいるのだろうか。


「歓迎してくれるといいんだけど」


 なかなか気難しそうな人なので思わずそう呟くと、セスは何も答えず悲しそうな笑みを浮かべたまま再び目を伏せた。

 何だろう。言葉以上の何かがセスの中にある気がする。セスとヨハンの関係性がいまいち把握できていないのではっきりとは分からないけど。


「僕、そろそろ戻るね。色々と教えてくれてありがとう」


 言うほど色々話をしたわけじゃないが、何となく気まずくなって私は席を立った。


「いや……おやすみ、ユイ。また明日」


 そんな私を引きとめることもなく、セスは穏やかに笑って部屋の外まで見送ってくれた。


「……おやすみ」


 突然その名を呼ばれて心臓がドキリと跳ねたが、それを悟られないように私は急いで部屋へと戻り、ベッドへと潜り込んだ。

 2人きりの時なんて今までもあったというのに、何故急に今その名を呼んだのだろう。胸の高鳴りがなかなか治まらず、すぐには寝付けなかった。

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