第243話 レコード
「レコードとは、場所の情報を記録した石のことです。触媒の一種ですね。それを作っておくと、別の場所からその場所に転移できるんですよ」
会話に割り込んでしまっても気を悪くした様子もなく、クロエは黒い小さい石をテーブルに置いた。その石に、白い模様が刻まれている。
「これがレコード?」
「ええ。私たちは依頼を受けて人や物を転移させたり、転移石を作って売ったりして生計を立ててますからね。いわゆる転移屋です。だからミトスのどの街へ依頼されても大丈夫なように、すべての街のレコードを作ってあるのです」
「転移屋!?」
何でもないことのようにサラッとクロエは言っているが、すごいことなのではないだろうか。
いや、転移術の適性を持ったルミアス族ならなんてことないのかもしれないが。
「じゃあここからカルナに飛ばしてって言ったら飛ばしてくれるってこと?」
「ええ、そういうことです」
「そんなすごいことができるなら、狙われたりしないの? クロエは戦えないんだよね」
ただでさえ天族自体がミトスでは珍しいのに、完全に天族と分かるような見た目で、なおかつすごい力を持っていて、さらに自身は戦えないときたもんだ。悪い考えを持つ人間に簡単に利用されてしまいそうな気がする。ガレンとかヴィレッタとかそういう人間に。
「もしそういうことがあったとしても、転移ですぐ逃げられますから」
「あぁ……なるほど」
クロエは笑みを崩さないままそう言った。
そうか、危なくなったらとりあえずどこかに転移しちゃえばいいのか。戦えなくとも逃げる能力は段違いに高いというわけだ。便利だな、転移術。
「ではエスタまで頼もうか」
「エスタですね。分かりました」
セスの言葉にクロエは素直に頷いた。
ここから目的地の1つであるエスタまで一気に行けるのか。しかもそこで訓練もできるなんて。今まで苦労して歩いてきたのは一体何だったんだろうレベルだな。
2人と別れた後また歩いて移動すると思うと、ここで楽を知ってしまって果たしていいのだろうか。
「じゃあ早速明日エスタに移動しましょう」
早く借りを返して私たちとはおさらばしたい。アンジェリカの言い方はそんな気持ちがにじみ出ているようだった。
その後、特に目立った会話もなく普通に4人で食事を摂り、解散となった。
ちなみにここでの食事代はすべてセスが払っている。それをセスが言い出した時、これ以上借りは作りたくないと苦虫を噛み潰したような顔で言ったアンジェリカと、さすがにこれを貸しにするほど性悪ではないと心底嫌そうな顔で返していたセスがちょっぴり面白かった。
「いきなり明日エスタに行けるなんてびっくりだ」
下の階に泊まっている2人を送り届けた後、私は聞きたいことがあるからとセスの部屋を訪れた。
「転移術は便利だからね。値は張るだろうが、転移術の触媒をクロエに作って貰ってもいいかもしれないな」
飲み物を私と自分の前に置いて、セスは私の向かいへと腰かけた。
ありがとう、と一声かけてそれを口に含むと、何とも言えない苦みが口いっぱいに広がった。これはバルロ茶だ。何だか久しぶりに飲んだ気がする。
「そっか、触媒さえあれば転移術を使えるんだもんね」
「まぁ、消費が激しすぎて常人には実用的じゃないけどね。君なら問題ないだろう」
「まるで僕が常人じゃないみたいな言い方だ……」
クロエといい、セスといい、私が普通じゃないみたいな言い方はやめてほしい。チート能力を持って転生したのならともかく、神力量が多いという以外は特に変哲もないエルフなのだから。
「それで、聞きたいことって?」
私の言葉には特に触れず、セスは背もたれにゆったりと背を預けて聞いてきた。




