第240話 取捨選択
「彼女は俺がリュシュナ族だと分かった上で取引を持ちかけたんだ。人選を誤ったのも事実だよ」
私の気持ちを知ってか知らずか、セスは淡々とそう告げる。
人選を誤った。セスはアンジェリカにもそう言っていたけれど、それはガレンとヴィレッタを選んだことについてなのかと思っていた。まさか自分を選んだのが間違いだと言いたかったとは。
「リュシュナ族に関わるとこうなるってこと?」
「極端な話だけどね」
私の質問にセスは苦い笑みを浮かべながら答えた。
「不老をもたらすリュシュナの秘石は金になる。寿命の短いヒューマなんて自分で使いたいと思う者もいるだろう。それが周知の事実であるのに、こうなることを想定しない方が悪い」
「…………」
「そもそもアンジェリカが言葉を省いて彼らに説明したから誤解を招く結果となったんだ。ちゃんと説明しておけばおそらく彼らも違う策を取ってきただろう」
「それは、確かに」
私たちにしたのと同じようにクロエを紹介しておけばよかったのだ。
そうすればアンジェリカとセスは無関係だとガレンたちも分かったのに。
「まぁ、2時間程度しか相談する時間がなかったのだから、どんな策でも無駄だったとは思うけどね」
そりゃそうだろうな。ユスカを使って入念に計画を実行した組織だって、最後は失敗に終わったわけだし。
「だからアンジェリカには自業自得と言える部分が少なからずあったというわけだ。その彼女を何の義理もない俺が助けてあげたのだから、貸しで間違ってはいないだろう?」
「いやぁ、まぁ……」
そうは言うが、さすがに義理くらいはあるのではなかろうか。と思ったけれど口に出せなかった。
「納得できないか? でもね、シエル。あれもこれも守りたいなんてやっていたら、本当に大切なものを取りこぼしてしまうよ。1人の人間に守れるものなどそう多くはないんだ。だから取捨選択を迷ってはいけない」
「取捨選択……」
言っていることは分かる。確かにその通りなのだとも思う。
でももし自分がセスの立場だったら、あの時アンジェリカを見捨てられただろうか。
「シエル、俺は」
と、言ったきり言葉を続けないセスを不思議に思って見ると、どこか遠く一点を見つめていた。
その先に視線を移すとアンジェリカがこちらに向かって歩いてきているのが見える。なるほど、だから言葉を切ったのか。
何を言いたかったのだろう。すごい気になる。
「お待たせしてしまったようね」
そう言って私たちを見下ろすアンジェリカは、今まで下ろしていた長い髪を高い位置で1つに纏め、ずいぶんと大人っぽい雰囲気を醸し出していた。
服装も戦闘を前提としていないからか、フリルのついた黒いドレスのようなワンピースで、まるで夜のお店で働くお嬢のようだ。決して露出が多いわけでもないのだが、タイトなワンピースのせいなのか先ほどから通りかかる冒険者の男性たちがチラチラとアンジェリカを見やっている。
「綺麗だね、アンジェリカ」
「……あら、あなたにそんな気が回せたなんて」
私の言葉にアンジェリカは妖艶な笑みを見せた。
「失敬な……」
まぁ、15歳の男子にそんな気が利いたことが言えるかと言ったら確かに珍しいことなのかもしれないけど。
「とりあえず、一度パーティー解除して登録し直すからカードもらえるかしら? ついでに報酬をもらってポイントもつけてくるから」
「登録し直すの?」
「ええ、あの2人を抜かなきゃいけないでしょう?」
「なるほど」
どうやら一度解散しないと2人を抜くことはできないらしい。その辺はゲームと違って不便なのだな。




