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第236話 クルヴァン討伐戦・2

 セスは着かず離れずクルヴァンを確実にこちらへと導いているようだった。


 こんなことを考えている場合ではないのかもしれないが、まるで舞でも踊っているのではないかと思うくらい綺麗な動作でクルヴァンを翻弄ほんろうしている。

 セスが言っていたように、巨体の割には動きが素早い。時折腕を振ってセスに攻撃を仕掛けながらも、ドォンドォンと地面を揺らしながらこちらへと走ってきている。


「くるぞ!!」


 ガレンが叫ぶのと、クルヴァンを誘導してきたセスが合流したのはほぼ同時だった。


 広場へとクルヴァンが足を踏み入れ、足元にいる前衛3人に向かって腕を振った。

 3人はそれを飛んだり下がったりして器用に避けている。空振りしたクルヴァンの腕からもたらされる暴風が、その威力の凄まじさを予見させている。


 核は一目見ればすぐに分かった。クルヴァンの胸にある青く光る石だ。的としては充分なほど大きくはあるが、動くのと距離があるのとでなかなか狙うのは難しそうだ。

 腕を振り上げてくれればまだ狙うこともできるのに、クルヴァンは両腕を左右に激しく振って足元の3人を攻撃している。


 核が見えた瞬間に水の神術を放つもすぐに振られた腕で防がれ、その表面を削るにとどまってしまった。ちなみに水を選んでいるのは、ウォータージェットで結晶を切断したいからだ。ダイヤモンドなどの硬い宝石もそうやって切断しているらしいので、精度をとことんまで上げて放っている。

 精度を上げるためには当然かなりの神力を消費するので、できれば早いとこケリをつけたい。


「……っ!!」


 突然クルヴァンの足元から太い鎖が何本も出現し、体を絡め取った。

 足にも巻かれた鎖でバランスを崩し、クルヴァンが両膝を折る。その衝撃で地面が激しく揺れ、吹き飛ばされそうなほどの暴風が襲ってきた。

 あの鎖はおそらくアンジェリカの幻術だ。

 クルヴァンが脱しようと激しく体を振る。腕にも鎖が絡んでいるので核は見えているし、膝をついているので高度も下がっている。なのに動いているために放った神術は核に当たらず、胸板を砕くように吹き飛ばした。あれが核に当たっていれば同様に割ることができていたに違いない。動く的に当てることがこんなに難しいなんて。


「くそっ……!」


 焦りから思わず苦渋の声を漏らした瞬間、セスがクルヴァンの右腕へと飛び移った。

 鎖から脱しようと激しく動くクルヴァンをものともせず、セスは勢いよく腕を駆け上がる。


「何を……!?」


 思わず核を狙う手を止めてセスを見つめる。

 セスはそのままクルヴァンの肩から頭の上へと飛び移り、剣を振り上げてクルヴァンの脳天へ突き刺した。


 ガアアアァァァと激しく咆哮を上げてクルヴァンの上体が仰け反る。


「シエル、今!!」


 アンジェリカの声でハッと我に返り、私は渾身の力を込めて核へと神術を放った。

 それは仰け反ったまま細かく震えるクルヴァンの核に見事命中し、核が砕け散る。

 鎖が消えると同時にクルヴァンは大きな音を立てて倒れ、衝撃と暴風が再び襲ってきた。


「やった……!」


 暴風が去ってからクルヴァンに目をやると、地面に倒れた体がさらさらと砂になって崩れていっていた。

 その中に、綺麗な青い核の欠片が散らばっている。


「シエル、お疲れ様。お手柄だ」


 落ちた欠片に向かって行ったアンジェリカの後に続こうとしたら、それよりも先にセスが私の方へと歩いてきて言った。


「セスのお陰だよ。ありがとう」


 何よりも先に私の元に来てくれたのが嬉しくて、思わず頬を緩ませながらセスの元へと駆け寄った。何せ他の3人は欠片の元にまっしぐらだからな。まぁ、いいんだけどさ。

 そんな私を見下ろし、セスもまた柔らかく笑った。


「それにしてもセスすごいね。かっこよかったよ」


 颯爽とクルヴァンの腕を駆け上がって行った光景を思い出し、私は笑顔で言った。

 それを聞いたセスは驚きの表情を浮かべて私を見つめ、すぐにフッと視線を逸らした。どことなく気まずそうな表情だ。


「…………?」


 あれ? これはまさか。


「照れてるの?」


「いや……」


「…………」


「…………」


 続く沈黙は肯定と受け取っていいのだろうか。意外と可愛いところがあるじゃないか。


「うっ……ああぁぁっ……!」


「!?」


 雰囲気を壊すように突然聞こえたアンジェリカの悲鳴で、私とセスは弾かれたように3人の方を振り返った。

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