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第233話 幻術

「ねぇ、クルヴァンってどんなモンスターなの?」


 解散後、私とセスは特に当てもなくアドルドの街を歩いた。

 準備は終わっているので、やることがない。


「巨像、と言えば一番分かりやすいかな。前衛が引き付けている間に後衛に核を割ってもらうことになる。でもだからと言って近づきすぎないようにね。大きい割には素早いし、一撃が重いから危険だ」


「分かった」


 今まで見てきたモンスターはどれも生き物という感じがしていたのだが、ついに巨像と来たか。


「アンジェリカは幻術師だから、君に頼ることになると思う」


「どうしてアンジェリカが幻術師だと僕に頼ることになるの?」


「そうか、君は幻術のことをあまり知らないのか」


 そう言ってセスは大通りに設置してあるベンチに腰をかけた。

 それにならって私もセスの横へと腰かけ、道行く冒険者を眺める。こうしてわずかな時間眺めているだけでも、多種多様な人種が目の前を通って行く。シスタスの街で同じように大通りを眺めた時とはだいぶ雰囲気が異なっていて面白い。


「幻術はその名の通り幻なんだ。例えば炎を作り出したとしても、幻術の場合はその炎で身体的ダメージを与えることはできない。でも熱さを感じさせることはできる。精神にダメージを与えると言えばいいのかな」


「身体的ダメージは受けないけど、実際に炎で焼かれているのと同じ痛みを感じるってこと?」


「そういうことだね。そして幻術の怖いところは、実際に身体的ダメージを受けているわけじゃないのに、死ぬほどの傷を負ったと思ってしまえば本当に死んでしまうことだ」


「思い込みで死んじゃうってこと? 何それ怖い……」


 身体的ダメージを受けたわけじゃないのに、一体どういう原理で心臓が止まるというのだろう。飛び降り自殺者は地面につく前に死んでしまうことがあると聞いたことがあるけど、それに近い感じなのかな。


「でも幻術だと思えれば無効化することができる。この炎は幻だ、熱くないと思えれば、触っても熱さは感じない」


「そう簡単にできるのかな」


 本物そっくりの炎を"熱くないですよ"と言われたところで信じられるだろうか。疑う心はそう簡単に消せない気がする。


「難しいけどね。でも幻術だから死なない、と思うことは大事だ。無理にでもそう言い聞かせていれば、恐らく死だけは免れることができる」


「なるほどなぁ……」


「まぁ、アンジェリカは味方なのだからそんな心配はひとまず置いておいて、クルヴァンの話をしよう」


 苦い笑みを浮かべてセスが言った。

 確かに幻術を使うのはアンジェリカなのだから、幻術をかけられたらどうしようという心配はする必要はない。


「君が一番に考えるのは、クルヴァンの間合いに入らないこと。その次に考えるのが核を割ることだ。近づきすぎないように気を付けて。今回は囮役が3人いるから、後衛まで行かせることはないと思うけどね」


「うん、分かった」






 それからはアルディナ語の勉強をしたり、前を通る人の中で珍しい種族がいたら教えてもらったりして時間をやり過ごした。

 いつもと変わらない時間の使い方に、緊張が解れていくようだった。そうするためにセスはあえていつも通りにしてくれたのかもしれない。


 時間より少し早めに転移陣に行くと、すでにアンジェリカは来ていた。

 聞けば、やることがないのでかなり早い時間からいたらしい。アンジェリカもやることがなかったなら、一緒にいてもよかったな。1人は暇だったことだろう。


「あんたらは相変わらず早いな」


 少し遅れてガレンとヴィレッタがやってきた。

 私たちが早いというより、2人が遅いのだ。しかしこの世界では珍しいことではないので誰も気にした様子はない。


「では、行きましょうか」


 アンジェリカの合図で私たちは転移陣がある建物の中へと入った。

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