第23話 渦巻く陰謀・3
「その通りだ。その料理店のオーナーだけではなく、届け先の家主もグルだろう」
オーナーに嵌められた。
私のその言葉にニルヴァは頷いた。
嘘でしょ……。この3週間真面目に働いてきたのに。オーナーも私によくしてくれていたのに。
ちゃんとしたギルドの契約に基づいて働いていたにも関わらず、こんなにも簡単に裏切られるなんて。しかもこれは……命にかかわることだ。
「じゃあ僕、どうなるんですか? 殺される?」
彼らは私を攫うことに失敗した。となれば順当に考えて次にやることは、状況を把握した私を始末することではないだろうか。
「あそこがお前にとって危険な場所であることは、お前は知らなかったんだろう? 男に襲われて逃げ延びたとしても、お前はオーナーを疑わないはずだ」
「それは、確かに……」
「お前がオーナーを疑ってかからなければ、消されることはない。かと言って荷物運びの最中に襲われたことを微塵も表に出さないもの不自然だ。お前はいつも通りに出勤して、襲われたが連れに助けられたと言っておけばいい。逃げた男から邪魔が入ってお前を取り逃がした話はいずれ伝わるだろうし、連れがいると言っておけばおそらく今後は手を出されることはないだろう」
「なるほど……」
自然にそんな話をできるだろうか。しかし怪しまれてしまっては自分の身が危うい。できるできないではなく、やらなければならない。
「ちなみに、もしあのまま連れ去られていたら僕はどうなっていたんですか?」
「お前はエルフだからおそらく戦闘奴隷としてアルセノに連れて行かれるのだろうな」
「アルセノ……戦闘奴隷……」
それって漫画とかでよくある、コロシアムで戦わされて貴族の見世物になるやつ?
死ぬまで出られないやつだ……。
「ニルヴァさん、助けてくれてありがとうございました」
「単なる気まぐれだ。だがシエル、俺のことも信用しない方がいいぞ? なぜ俺があそこにいたのか考えろよ。次に会うことがあるとしたらお前を売る側かもしれんからな」
「…………」
冗談に聞こえない。裏稼業の人間が集まる区域にニルヴァがいたのには、きっとそれなりの理由がある。
今こうして話している途中にも手の平を返してくる可能性だってあるかもしれない。宿に入れたのは危なかったか……。しかし言われるまでその可能性を考えもしなかった時点でもう遅い。ニルヴァが黒なら、私はすでにチェックメイトだ。
「そうならないように祈ってます……」
自嘲気味に笑って言うと、ニルヴァも鼻で笑った。
「じゃあ、俺は行くぞ。長生きしたいなら余計なことに首を突っ込むなよ」
「ありがとうございました。肝に銘じておきます」
ニルヴァが去った後も、私はしばらくその場から動けなかった。
もう依頼なんて投げ出して宿に籠りたい気分だ。しかしそれをしてしまえばオーナーを疑っていると言っているようなものだろう。あと1週間で契約が終わるとは言え、顔を出さなければならないのは気が重い。
これ、ちゃんと達成カードもらえるんですよね?
夕食を食べる気にもならず、お風呂に入ってそのままベッドで横になった。
次の日、なるべく平静を装って料理屋に出勤した。
オーナーはそんな私を見て、何も変わらない様子で挨拶をしてきた。
「おう、昨日はありがとな! 荷物届けてくれてよ」
「オーナー、帰りに路地裏で襲われましたよ……。危うく攫われるところでした。連れに助けてもらって事なきを得ましたが……」
ちゃんと自然に言えているだろうか。
「なんだと? 怪我はなかったか!? そんなことになるなんて……悪かった。無事でよかった」
オーナーは関わっていないんじゃないかと思わせるくらいの自然な演技で、私の肩を掴んで切実そうに言った。
演技賞を差し上げたいくらいだ。
でも騙されない。オーナーは私を騙した張本人と思っていた方がいい。
そうでなければまた足を掬われる。
内心は焦っているのだろうか。仕事中、心なしか口数が少ないように思えた。




