第230話 曖昧な関係
天族の人と愛し合っているとかってアンジェリカは言っていなかったっけ?
どういうことなんだ。愛に性別は関係ない系?
一瞬、私みたいに中身の性別が違うのかと考えたが、転生者は地族にしか生まれないはずだし、やはりそういうことなのだろうか。
「紹介するわね。クロエよ。先日話した、ルミアス族」
私の視線を感じたのか、アンジェリカが背後に立つ天族を前に出して言った。やはりこの女性がアンジェリカが愛していると言っていた人物で間違いがないようだ。
このクロエという人はウェーブ掛かった薄い金の髪に、橙色の瞳、羽のような耳を持っている女性だった。
白いフリフリの服を着ていて、まるでアンジェリカと対になっているようだ。ゴスロリとロリ、そんな感じ。クロエは儚げで綺麗な女性なので、とても様になっている。
「初めまして。ルミアス族のクロエです。クルヴァンの討伐をお手伝いしていただいた暁には、私が責任を持ってヴェデュールまで送りますので、よろしくお願い致しますね」
クロエが可愛らしく笑って言う。透き通るような綺麗な声だった。
「よろしく」
「シエルです。よろしくお願いします」
セスも私も挨拶を返したが、クロエはセスを一度チラリと見ただけで、それ以降ずっと私を見つめている。何だろう。
「あの、僕が何か……?」
「あ、いえ、女性なのか男性なのか分からなかったので。すみません、不躾に」
私の問いにクロエは申し訳なさそうに視線を外し、頭を下げた。
「あぁ……僕は男です」
そういうことか。
アンジェリカとそこまでの話はしていなかったのかな。
「それで、明日はどうすればいいのかな?」
まるで話を無理やり切り替えたみたいにセスがアンジェリカに問うた。
「明日の朝7時にギルド集合で。そこでパーティー登録するから」
アンジェリカも別段気にした様子も見せずに答えた。
パーティー登録? そんなものがあるのか。よく分からないから後でセスに聞いてみよう。
「クロエは、君の神力量が不思議だったんだろうね」
アンジェリカとクロエが去ってから、セスが言った。
「え、性別の話じゃなくて?」
「天族が君を見た時、最初に気になるのはその神力量だと思う。少なくとも俺はそうだった」
「自己紹介の時? そんな感じには見えなかったけどな」
もうはっきりと覚えていないが、駐屯地で自己紹介をした時にはセスに訝しんでいる様子はなかったように思う。
「そりゃあ……あの時に君1人をジロジロ見ている訳にもいかないだろう」
セスが苦い笑みを浮かべて言葉を返す。
「そっか。それは確かに。じゃあ性別の話は咄嗟の嘘だったのかな。セス以外の天族と話すのは初めてだから神力量のことなんて失念していたよ」
「まぁ、天族はあまりミトスにはいないからね」
「うん」
思えば魔族とはちょこちょこ会っていたが、セス以外の天族とは全く会う機会がなかった。セスの言うように、ミトスでは天族よりも圧倒的に魔族が多い。街でそれっぽい人を見かける機会はあっても話す機会などなかった。
「それにしてもクロエがアンジェリカの愛している人……なんだよね」
「そうなのだろうね」
私の言葉に何の感情も込めずにセスは頷いた。
「女性同士……で?」
「別にいいのではないかな。他人がとやかく言うようなことではないしね」
「うん、まぁ……そうだよね……」
同性愛はこの世界で割と一般的なことなのだろうか。セスの口ぶりからは別段特別なことのようには感じられない。
だとしたら、セスは私のことをどう思っているのだろう。
"私自身"を好きでいてくれているというのは分かる。でもだからと言って、触れてきたりすることはないし、私からもそうすることはない。
それは、"シエル"が男であるからそうなのだと思っているし、実際男であるから私からそうするのもどうかと思っているのだが、実のところはどうなのだろう。
私がもし、ちゃんと女として生まれて、今こういう関係になっていたとしたら……セスは私に触れてくれるのだろうか。最初から女であったなら今一緒にいることはないのだろうけど、それはすごい気になる。
しかし"触れたくない"などと言われてしまったら立ち直れないので、それを聞くことはできなかった。




