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第224話 厳然たるもの・2

 こうなったら威力で勝負だ。地形を変えない程度に最大限の威力を込めて術を撃ってみよう。


「氷の槍よ……彼のものを撃て!」


 時間をかけてじっくりと、これを避けるのはきっと無理というくらいの数を作り上げて、高所から撃ち落す。

 セスはそれを両手を掲げて相殺した。

 相殺された氷の槍が水となってシャワーのようにセスへと降り注ぐ。

 びしょ濡れにしてしまったがそんなことは気にしない。こちらだって手酷くやられているのだ。

 

 セスは自分に当たるであろう範囲しか相殺しなかったので、地面に突き刺さったままの氷の槍を水へと戻し、その水を今度は無数の氷粒へと作り変えた。

 その時点で多分セスには何か予感するものがあったのだろう、周りに浮かぶ無数の氷粒を覇気で相殺した。


 が、範囲外にはまだたくさん氷粒が残っている。


「竜巻よ、彼のものを飲み込め!!」


 私はそれに風を混合し、一気に竜巻を作り上げた。

 氷粒が含まれた竜巻が一瞬でセスを飲み込む。巻き上げる風で自分の体も揺らいだ。危ない。落ちそう。


「……!」


 作り上げた竜巻はすぐに相殺され、風と水がセスを中心として放射状に散った。


「シエル! このまま消耗戦に持ち込まれたら俺は負ける。降参だ」


 下から私を見上げてセスが叫んだ。


 ほぅ、降参か。なるほど。

 確かにセスは肩で息をしている。無傷ではあるが、私より消耗をしているのは確かなようだ。


 蹴られた脇腹が痛むので、私は岩で階段を作り上げてゆっくりと下りた。






「痛かったよね。ごめん。でも訓練上必要なことに関しては、これからも遠慮をするつもりはないよ」


 私に治癒術をかけながら、セスは真剣な表情で言った。


「うん、分かってる」


 セスは別に私を痛めつける目的でそうしているわけではない。これは私のためだ。そんなことはちゃんと分かっている。


「でもこれで勝っても意味がないな。こんなの卑怯だし」


「命のやり取りに卑怯も何もない。近接相手に高所から攻撃を仕掛けるのは普通にある手段だよ。そこから高威力の術を撃ち続ければ殺せない敵などそうはいない。君は神力量も回復速度も桁外れだからね」


 卑怯、という私の言葉を否定して、セスが言葉を返した。

 戦法として当たり前のこと、というわけか。


「うーん……」


 確かに命を狙われているという状況ならそうなのかもしれないけど、セスに訓練をしてもらうという今の状況では意味のないことだ。これでは自分自身が強くなることはできない。

 まぁでも、こういうやり方は通用する、ということが分かっただけでも大きいか。


「でも1つだけ」


「……?」


「君が上から落ちて来た時、もし俺が君を殺すつもりでいたなら蹴り飛ばさずに串刺しにしている。あれは危険だよ。俺の蹴りを避けられなかったんだから、それも避けられないだろう」


「なるほど……。それは確かに」


 ならば、結局は勝ててもいなかったということだ。


「全然進歩しないなぁ……」


「そんなことはない。地形を上手く利用していたし、良かったと思うよ。飛び降りてさえこなければ、ね」


 肩を落とした私を励ますように、セスが言う。

 しかしあれが実戦なら私はここで死んでいたわけだ。決して良くはない。


「僕が上から落ちてきたことには驚かなかった? 予想できてた?」


 意表をつけるのでは、と思ってやってみたのだが、あの時のセスに驚いた様子は全くもってなかった。


「そうだね。君が珍しく火の神術を使ってきたから、視界を遮るのが目的なのかなとは思った。でもそれは俺が君の戦い方を知っていたからそう思っただけで、知らなかったのなら多少は驚いたかもしれない」


「多少は、か」


 どっちにしろ、あっと驚く作戦とはならなかったわけか。


「だとしても落下の速度を緩めるために君が使った風の神術で、君を殺せるだけの時間は充分得られた。それがなかったらなかなかいい奇襲になったかもしれないけどね」


「あんな高さからそのまま落ちたら怪我じゃ済まないよ!」


 さらっととんでもないことを言うセスに、私は即座にツッコミを入れた。

 セスならできるのかもしれないけど、私には無理だ。


「それはそうだろうね。ごめん、着替えて来るから後で濡れた服を乾かしてもらってもいいかな?」


 そう言いながらセスは荷物が置いてある場所の方へと歩いて行った。


 待て待て。じゃあどうしろって言うんだよ。

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