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第222話 エルンスト・2

 エルンストの奥さんはリュナという名前で、40代くらいの肝っ玉母さんを小さくした感じのドワーフだった。


「いやぁ、あんたが生きてて本当によかったよ! 数日前までのセスは本当に死んだみたいに落ち込んでたからねぇ!」


「リュナやめてくれ」


「もうご飯も食べないし部屋から出てこないしでどうしようかと思ったよ!」


「リュナ」


「だから無理矢理買い物に行かせたんだけど帰って来ないし、どこ行ったのかと思ったらあんたを見つけたって言うからさぁ!」


 多分セスはご飯をご馳走になる許可を出したことを心底後悔していることだろう。

 頭を抱えるセスを全く気にすることなく、リュナはセスがいかに落ち込んでいたかを大声で語ってくれた。


 ばらされたくなかったんだろうな……かわいそうに……。私はその話聞けて少し嬉しかったけど。


「あまり俺をいじめてくれるなよ、リュナ。貴女がシエルを連れて来いっていうから来たのに」


「いいじゃないか! めでたい話なんだからさ!」


 あれ、そういう話だったのか。

 そうか、昨日セスはここに手伝いにきているからその時にそう言われたのかな。

 それにしてもセスが人に翻弄ほんろうされているのはちょっと面白い。


「命は重いからな。それを実感できたみたいなら何よりだ」


「別に命を軽視しているわけじゃない」


 口を挟んだエルンストに、セスはムッとしたように言葉を返した。


「そういう意味で言っているんじゃない。お前にとって命は今まですべて同等の重さだった。誰が死のうと誰が生きようと同じだ。でもシエルの命はそれより重かったんだろう? お前に足りなかったのはそれだよ。自分に失いたくない命があって初めて命の重さを知るんだ」


「…………」


 エルンストの言葉にセスは黙った。

 本来ならセスにとっての失いたくない命はユスカのはずだった。だから、エルンストの理論で言えば一度は命の重さを知ったはずだ。きっとセスは一度知ったはずのそれがどうでもよくなるほど絶望したんだろう。信じていた人に裏切られたからこそ、すべてがどうでもよくなったんだろう。

 誰が死のうが、誰が生きようが、構わない。


「さ、重苦しい話は終わりにして食べようや。シエルの口に合うといいんだがなぁ」


「あんたが言うんじゃないよ!!」


 エルンストの軽口にリュナが芸人のツッコミよろしく言葉を返したので、先ほどまでの重い空気は一転して騒がしくなった。

 セスもこれで終わりだと安心したのか、苦い笑みを浮かべている。

 リュナが作ってくれた料理は、店で食べるものよりも味が薄く私好みだった。

 入院している人のご飯も作ったりしているらしいので、それで薄味にしているのだろう。


 私とセスが喋らずとも、エルンストとリュナの2人が絶えず喋っているので食卓は盛り上がりを見せた。

 何だか久しぶりにこんなにワイワイとした食事を摂った気がする。

 討伐隊にいた時以来だろうか。懐かしい。


「明日発つことにした」


 食事があらかた綺麗になった頃、今まであまり喋っていなかったセスが口を開いた。


「そうかい。ずいぶんと急だな」


「ここにいる目的もないからな」


「そりゃ寂しいこと言うねぇ。ここからどこへ行くんだ? 元々はネリスの手前にいたんだろ?」


「エスタへ」


「ほぉ、ヨハンの所に行くのか。シエルをヨハンに会わせるのか?」


 エスタ、という言葉を聞いた瞬間、エルンストの表情が明るくなった。

 セスはヨハンの名前を一言も出していないのだが、エルンストにとってはエスタ=ヨハンなんだろうな。

 まぁ、実際ヨハンに会いに行くわけだから間違いではないけれど。


「ヨハンとシエルは"同郷"なんだ」


「へぇ……そういうことか」


 その言葉で思い当たったらしいエルンストは真剣な表情で私を見つめた。

 ということはヨハンが転生者なのは知っているということだ。

 そしてセスが私のことも話したということは、エルンストはかなり信頼できる人物なのだろう。


「シエル、あんたにとっちゃ生きにくい世界だと思うが、辛くなったらいつだってセスを頼れ。ヨハンに会ってみてヨハンが気に入ったなら、ヨハンでもいい。何なら、俺でも。とにかくあんたは1人で生きようとするな」


「……はい」


 エルンストが言うことの深い場所まではきっと理解できていない。

 けれど、覚えておかなければならないんだろう。転生者は1人で生きてはいけない、ここはそんな世界だということを。


「じゃあ気を付けてな。ヨハンによろしく言っといてくれ」


「またね、セス、シエル。ロッソに来た時は顔を出しておくれよ」


「ああ。世話になった」


「ありがとうございました」


 見送ってくれたエルンストとリュナに別れを告げて、私たちは宿へと戻った。

 いい人たちだったね、という私の言葉に、セスはそうだね、と言いつつも苦い笑みを返した。

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