第221話 エルンスト・1
「ここからエスタに行くための経路は2つ。このまま北へ向かってアドルドを経由してヴェデュールに入るか、いったん東に出てヘレンシスカからヴェデュールに入るかだ」
朝食を食べ終わった後、テーブルに地図を広げてセスが切り出した。
ロッソの北にはアドルドがあり、東にはヘレンシスカがある。
ルーマスの最北に位置するヴェデュールはアドルドの北に当たるが、L字を逆にしたような形状のヘレンシスカもヴェデュールに接している。
「単純に考えれば最短距離はアドルド経由だよね。ヘレンシスカを経由する選択肢が出てきたのはどうして? 僕が行きたいかどうか?」
「いや、そうじゃない。アドルドは山に囲まれている国だ。ヘレンシスカ経由に比べたら道中も険しいし、危険も多い。ヘレンシスカを経由して安全を取る選択肢もあるということだ」
「なるほど……」
確かに地図で見るアドルドは四方を山に囲まれており、入るのも出るのも山を越える必要がありそうだ。
しかしそれを避けてヘレンシスカを経由するなら、かなりの遠回りになる。
「どっちがおすすめ?」
「俺と君の2人なら問題ないだろうから、アドルド経由かな? ただその場合、馬車は用意しない方がいい。カデムに積める最低限の荷物だけで行かないと、山道がきつい」
「うーん……」
ということは、料理もできないのか。別にそんなに料理が好きというわけじゃないんだけど、保存食ばかりは飽きてしまう。
かと言ってそれを理由にわざわざ遠回りするのもなぁ。急いでエスタに行かなきゃいけないわけでもないから、いいっちゃいいのかもしれないけど……。
「何を悩んでいるの?」
「馬車じゃないと料理道具は積めないなーと思って」
「なるほど、そういうことか。まぁ、任せるよ。俺はどっちでもいいから」
だよね。どっちでもいいって言われると思った。
まぁ、でも馬車を用意するなら荷台を買うしかないわけだし、料理のためにそこまでお金をかける必要もない。荷台がいくらで買えるのか知らないけど。
「じゃあアドルド経由で」
「わかった。じゃあ今日準備を整えて、明日には発とうか。ここにいる理由もないしね」
「うん、そうだね」
というわけで色々と準備を整えて準備万端になった夕方、驚いたことにセスは私を知り合いの診療所へ連れて行った。
そこは店なども少ない住宅街と思わしき場所にあった。ここまでは足を踏み入れたことがないので、セスから見つけてもらわなければ何をどうやっても私にセスを見つけることはできなかっただろう。
「やぁ、あんたがセスの言っていたエルフの少年か。ずいぶんと綺麗な顔してんなぁ。初めまして、俺はエルンストだ」
「初めまして、シエルです」
差し出された手を握り返して私も自己紹介した。
エルンストは、ずんぐりむっくりしていたガルガッタとは違い、ほっそりとしたドワーフだった。見た目的には40代くらいだろうか? どこにでもいそうなおじさんの背を小さくしたみたいな感じだ。
「もう落ち着いたのか?」
「あぁ、そろそろ閉めようかと思っていたところだよ」
セスの問いかけにエルンストは机の周りを片づけながら答えた。
道中に聞いた話によると、この診療所は外来がメインなんだそうだ。一応、2~3人なら入院もできるように設備としては整っているらしいが、入院が必要なほど重傷な患者は最初から大きい病院に行くことが多いので普段はあまり来ないらしい。
かと言って暇かと言われたらそうじゃないみたいで、工場で働く人たちがひっきりなしに訪れるんだとか。確かに工場は怪我が多そうな職場だもんな。
「シエル、飯でも食ってけよ。ちょうど嫁が今作ってるから」
「えっ?」
突然話を振られたので素っ頓狂な声が出てしまった。
「あ、えーと……」
いいのかどうかわからなくてチラッとセスを見ると、軽く頷いたのでいいということだろう。
「では、お言葉に甘えていただきます」




