第220話 命令
1人はつまらない。
昔はずっと1人だったはずなのに、いつからこんな風に感じるようになってしまったのだろう。
……などと問いかけなくとも、私の隣にセスがいるようになってからだというのは自覚している。
だから物珍しい工場地帯を1人で歩いていても、別段何も感じない。
結局、適当に街を見て回って、適当に小腹を満たして、最後にリッキーたちの顔を見に行って、私は早々に宿へと帰った。
私とセスは同じ宿でも階層が違うので、セスがいつ帰ってきたのかなんて全く分からなかったが、お腹が空いたな、なんて思い始めた頃にちょうど扉を叩く音がした。
「ねぇ、もし明日お姉さんを見つけたら、セスは僕の前からいなくなるの?」
1人はつまらない、なんて昼に考えていたからだろうか。
セスと共に食堂で夕食を摂っていたら、私たちが旅を共にするのはセスが双子のお姉さんを見つけるまで、という条件付きだったことを急に思い出した。
「…………」
それを聞いた私を、セスは見なかった。
「姉のことは、正直もうどうでもいい。見逃しても構わないと思っている。でも、ある日突然姿を消した姉とは違って、俺の生死は一族に把握されているんだ。命令を放棄すれば次は俺が処分対象になる」
「どうやって一族はセスが命令を放棄したと判断するの?」
どういう手法で生死を把握されているのかというのも気になるのだが、命令の放棄を判断する基準が一番気になる。
生死を把握されているだけなら、セスがお姉さんを追っているのか放棄しているのか一族は知り得ない気がするんだけど。20年という期間をヨハンの元で過ごしていたのだから、GPS的なものはついていないのだろうし。
「2~3年に一度、報告に戻っているんだ。だから多分5年とか、そういう期間戻らなければ放棄したと判断されるんじゃないかな」
「え、そうなの!? じゃあヨハンさんの所にいた時はどうしてたの?」
「その時だけヨハンの元を出てアルセノに行った。エスタでユスカに襲われる前、ちょうどアルセノからアルディナに戻って一度報告していたからね。次の報告の頃合いには純粋にヨハンに師事していた部分もあるし、ヨハンも止めなかったんだ」
「なるほど……」
20年間の間で何度かそうやってアルディナに戻っていたわけか。
それでまたちゃんとヨハンの元に戻っているということは、2人の関係性は話に聞くほど悪くなさそうな気がする。そのまま帰らないことだってできたんだし。
「命令を放棄して処分対象になったとしても、俺が姉を見つけられないようにそう簡単に見つかることはないかもしれない。でも、もし見つかった場合、きっと君を巻き込んでしまう。俺が追手だったら、確実に君を人質に取るからね」
「まぁ……そうなるよね……」
私でもきっとそうする。
わざわざ真正面から現れてセスと正々堂々戦うなんて危険すぎる。
しかし人質に取られるのはさすがにまずい。セスの枷になるなんてまっぴらごめんだ。
「じゃあ現状維持が一番なのかな」
お姉さんを取り立てて追う訳でもなく、しかし報告は怠らない。そうすれば今と変わらず旅を続けることができる。
「そうなんだけど、一族が姉の捜索を打ち切ったら俺はもうミトスに戻れなくなるから……報告の時には君も一緒に連れて行こうかな。ただまぁ、アルディナでは俺は自由にできないから、できればミトスにいたいんだけどね」
「え、アルディナに行けるの!?」
「……そんなにアルディナに行きたいのか」
その言葉で目を輝かせた私を見て、セスが呆れたように笑った。
「そりゃあ、天界だから! 一度は行ってみたいよね」
「天界だから、の意味がよく分からないけど、まぁ、じゃあ、エスタでヨハンに会った後はアルセノに渡ってアルディナに行こうか。ちょうど報告の時分だから」
「うんうん。じゃあ、アルディナ語をもっとちゃんと教わらなきゃ!」
「……普通にミトス語通じるけどね」
というセスの呟きは聞こえなかったことにして、私はこの後セスの部屋を訪ねてアルディナ語を教えてもらった。




