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Side-ヘルムート・4

「クルスの調べ? 話には聞いたことあるが、実在する術なのか?」


 それは、自死を禁じられた天族がどうやったらそれを可能とするか研究し尽くして生まれた術だと聞いたことがある。

 神力を封じられた状態でも使え、しかも自死には当たらずして自分の命を絶てるという奇跡のような神術らしい。


 しくもアルディナの意思に逆らうような形で、天族は禁忌をひっくり返すほどの奇術を手に入れたのだ。

 しかし話の中だけで存在する術なのでは、という説も聞くくらい、それを実際に見たものはいない。


「クルスの調べは実在します。音を使う難しい術なので、できる人間は限られますが」


「君はそれができるというのか」


「ええ。できるから、俺はミトスに降りることを許された。クルスの調べはリュシュナ族の秘石ごと、完全に肉体を消滅させる。"秘石を利用される前に肉体を滅せよ"、ミトスで死を悟った際にはそうするようにと、命令を受けています」


「なるほどな。他には?」


 その方法は論外だ。一部の天族にしか使えない術では意味がない。


「俺があの時に取れた方法は、その2つです」


「そうか。私にはやはり無理だったか」


「そうですね。転移石でも手に入れない限りは、難しいでしょう。クビト族は魔術、使えませんよね」


「ああ、使えない」


 人を糧とし、血で人を癒す。それがクビト族の能力であり、それがクビト族のすべてだ。

 だから皆武器を取り、利用価値の高い自分の身を守った。リュシュナ族と似通った部分はある。


「それでもやっとここまで来た。やっと、死ねる」


「俺からも1つ聞かせてください。貴方はどうしてそこまで死を強く望めるのですか。俺にはできなかった。シエルの命を犠牲として生き延びたこの命で死を望むことは、どうしても……」


 安堵の息を吐いた私を見据えてセスが言う。

 セスはそうすることで私を責めているわけではなく、純粋にその理由を聞きたいようだ。


「私が弱いからだ。どちらかが死なねばならぬのなら、私はきっと自分の身を犠牲としてモニカを助けることはなかっただろう。そうしてモニカを1人残すくらいなら私は共に死ぬことを選ぶし、モニカにもそれを選んでほしかった。モニカは私だけのもので、私もまた、モニカだけのものだ。1人で生きている意味などない」


「……貴方は、強い。誰に何を言われようと、それを貫き通した貴方は強い」


「……どうだろうか」


 おそらく強いのは、そんな私に死というゆるしを与えてくれるセスだ。それを言えばきっと彼は、"これは正当な取引ですから"とでも答えるのだろう。


「さぁ、始めようか、セス」


「…………」


 両手を広げた私を前に、セスは無言で背中から短剣を抜いた。私が渡した剣を使わないところが、何とも彼らしい。


「動かないでくださいね。なるべく、苦しませたくはないので」


 短剣に神気を纏わせてセスが言う。

 例えば私が動いて急所を外したら、セスは"やっぱりやめますか"と聞くのだろうか。それとも、冷静に刺し直すのだろうか。さすがにそれを試す気にはなれないが、苦しむ私を前にセスがどういう態度を取るのか少し気になった。


「あぁ、一思いに頼む」


 その言葉を最後に、セスは地面を蹴った。




 セスは、私をその手にかけるとシエルが悲しむことを理解している。

 理解している上で、それを淡々と遂行しようとしている。

 シエルに気取られないように、何事もなかったかのように。


 分かっていてそれをやらせる私は、非道だろうか。




「……っ!!」


 胸を刺し貫かれる痛みに思考が現実へと戻る。

 わずかな息を吐き出した瞬間に短剣が引き抜かれ、私はまた痛みに息を詰めた。

 崩れ落ちていく体を支えることもなく、感情の色を見せることもなく、セスはただ静かに私を見下ろしている。


 まるで人形のようにも見えるそれは氷のように冷たく、炎のように熱く、風のように掴み所がない。かと思えば大地のようにただ静かにそこにいて、時の流れを見守っていた。


「悪くない、光景だ……」


 その呟きすら、私を見下ろす深い青の双眸に吸い込まれていく気がした。




 私はやっと、私を縛るすべてのものから解放される。

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