Side-ヘルムート・3
単純に、"心臓を一突きにしてくれ"と頼んだら、"クビト族である貴方の場合、そう楽には死ねないと思いますがいいですか"と聞かれた。
"それでもいい"と答えると、"分かりました"と短く返事をして、彼は次の話に移った。
次にセスは、私が死んだ後にその肉体をどうするのかと問うた。
確かにクビト族である私の肉体は、死してなお使い道がある。おそらく望めばその痕跡をすべて消してもらえるのだろうが、自分が死んだ後のことなど正直どうでもいい。
だから、"その場にそのまま残して構わない、何なら君が利用してくれてもいい"と答えた。セスはそれを聞いて、"では自然の摂理に任せます"とだけ言った。
その気遣いは、素直に嬉しいと感じた。
「すみません、お待たせしました」
別に時間を約束していた訳でもないのに、現れた彼は私を見るなりそう言った。
ここはロッソの街を出て1時間ほど歩いた場所にある、丘だ。
近くに1本高く伸びる木があり、ロッソの街からはちょうどいい目印となった。
この場所を指定したのは私だ。あそこで待っているからいつでもいいとセスに告げ、最後の朝食を共にしてから数時間が経過しただろうか。
「シエルに勘付かれるといけないので、少し入念に準備をさせてもらいました」
「構わないよ。急いでいるわけではないからね。しかし何と言って別行動を取っているのかは知らないが、シエルが君の後をつけてくることはないだろうに」
「そうですね。ほぼないでしょう。ですが、そのわずかな可能性を捨てたがために過去何度か失敗しましたので、今回ばかりは念入りに。シエルは俺の予測の範囲を思いもよらない所から超えていくので」
この男でもシエルに翻弄されることがあるのだと思うと、思わず笑みがこぼれそうで慌てて噛み殺した。
「可笑しいですよね」
「いや、すまない。笑うつもりはなかったのだが、少々意外でね」
噛み殺せていなかったらしい笑みを悟られ、私は取り繕うようにそう言った。
「いいんです。俺も自分で呆れてしまいましたから。ここまで自分の予測に収まらないのかと」
「それだけ君に対して真剣に向き合っているのだろう、シエルは」
「ええ、そうですね……」
そう言って笑うセスは諦めたようでいて、どこか嬉しそうに見えた。
「1つ、聞かせてほしい。もし君が、自分の命を絶つことができるとするなら……シエルを失った時に君はどうしていた?」
それを聞いてどうするのかと言われるだろうか。しかし自分と似た境遇を持つこの男は、今でこそ笑みを浮かべているが一時は絶望の最中にいたはずだ。もしその時に自死が可能だったとするならば、どういう選択をしたのだろうか。
「天族が自死を禁じられているというのは世に広く浸透しているのでしょうが、実はいかようにもやり方はあるんですよ。あの時の俺にもそれは可能だった。しかし、シエルが俺の命を救うために命を懸けたのだと思うと……この命を捨てることはできませんでした」
「……ほう」
私の質問にしかしセスは真面目に答えてくれた。
「それは、どのような方法だ? 呪いをかけられた時に、私はそれでも自分の命を絶つ方法を模索した。しかし結局、人を喰わずしてゆるゆると朽ちて行くのを待つより他になかったのだ。君はどのようなからくりを使って自分の命を絶てるというのだ?」
セスがどのような選択をしたのかよりも、いかようにもやり方はあると豪語したその方法が気になった。
それならば、その時の私にもやりようはあったのだろうか。
「1つ目は、俺が持っているアルディナへの転移石を使う方法です。神力をある程度消費してから使えば、発動に足る神力がないがために簡単に死ぬことができる。その場に死体を残すことになるので、あまり推奨はされませんが」
なるほど。確かに術師ではない人間の場合、転移術は命に関わる。しかしそれには転移石という道具が必要だ。そう易々と手に入るものではない。
「2つ目は、"クルスの調べ"を発動する方法」
突如紡がれた"クルスの調べ"という単語に、私の思考は遮られた。




