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Side-ヘルムート・2

 シエルが事の顛末をセスに説明した際、私とモニカのことを話すことはなかった。

 私に窺いを立てることもなくそれを話す人間ではないことは分かっていたので、それについては補足という形で私から軽く説明してある。

 セスはそれを聞いて少なからず自分と私を重ね合わせたであろうが、最初から最後まで顔色を変えることはなかった。

 それを見て、この男はそれだけで私の望みを把握したのだと悟った。


「私は呪われていてね」


 幾分長考だったかもしれないが、その間もセスはただ静かに私の言葉を待っていた。


「ゲオルグさんの呪いですか?」


 私の言葉に視線を上げ、やはり感情の籠らない瞳で私を見つめている。


「そうだ。君たち天族と同じ、自身の魂を傷つけられない呪い」


 自死を禁じられている天族とは違い、魔族はいつだってそれを自由に行うことができる。不死特性を持つ魔族だって、自分自身で魂を傷つければ死ぬことができる。

 しかしゲオルグは呪術を使って私に自死を禁じる呪いをかけた。それがなければ、私はとっくに自ら命を絶っていただろう。

 記憶を持って転生できないのであれば、転生をする意味などない。しかし記憶を持って転生するのであれば、それもまた今の私には意味のないことだ。結局、転生に拘る意味がない。

 モニカは自身の命を代償としたことで、魂を滅してしまったのだから。


 それを考えると、異世界からの転生者は哀れだ。

 今までに聞いたどの転生者も、卑劣な考えを起こす人間たちによって散々利用されてきている。別の世界の、類稀なる知識を持ったまま転生してしまったがために。

 しかしそれでもシエルは、セスという絶対的に信頼できる存在を得たことで救われたのかもしれない。


「モニカが命を代償にして私を救ったことで、一番人生を狂わされたのはゲオルグだ。ゲオルグにとって、モニカはすべてだった。だからそのモニカに生かされた私を生かすことでしか、己を保つことができなかったんだろう」


「……なるほど」


 屈強な男に見えて、ゲオルグは弱い。

 モニカのためにすべてを捨て、モニカのためだけに生きて来たのだから、そのモニカを失えば崩れてしまうのは仕方がないのかもしれない。

 が、解呪するためにとゲオルグを殺せなかった私は、きっとそれ以上に弱いのだろう。


「だからセス、私を殺してくれ。対価はシエルを君の元に連れて来たことと、君に渡したあの剣だ」


 そう言いながら、剣の対価として受け取った白金貨20枚をテーブルに置いた。

 私の言葉を聞いても、置かれた白金貨を見ても、セスの表情は変わらない。


「こちらの出す条件を呑んでいただけるなら、お受けします」


 そして静かにそう口にした。

 なるほど、その内容は予想できる。


「シエルに気取られるな、って?」


「……そうです。言わずとも、貴方は元よりそのつもりなのではないかと思ってはいるのですが」


 私の言葉にセスは苦い笑みを浮かべて言葉を返した。


「そうだね。わざわざシエルの前で君に剣を買わないか持ちかけてみたり、シエルが寝静まった後にこうして君を訪ねてみたり、私なりに気取られないようにしているつもりだ。シエルは君に私を殺させたくはないだろうからね」


「助かります。シエルに気持ちをぶつけられると心が乱れますし、その後のフォローも正直、大変なので」


 好きな女の言葉1つで心を掻き乱されるだなんて、何とも人間らしい。

 人間らしいが故にこうして必死になっているんだと思うと、哀れにもなる。


「では、正式に貴方の依頼をお受けしましょう。それに際し、いくつか確認しておきたいことがあるのですがよろしいですか?」


「ああ」


「貴方がどのような方法を望むのかと、どこまでを望むのかについて」

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